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第20話 ずれてる自信
ぴたりと動きを止めた網野が、口を開く。
「もうシたくないっすか? 上手いのは、…やっぱチャラくて無理っすか?」
顔を隠したままの網野は、しょぼーんと肩を落とし、悄気 かえる。
網野は、“チャラい奴は嫌だ”といった俺の言葉を覚えていた。
その言葉の真意は、馬鹿真面目な俺が、遊んで捨てられるのが目に見えていたからだ。
それなのに、俺の理想に…、余裕のある大人の男になろうと、網野は変わろうとした。
もう、網野のコトをチャラくて軽い男だなんて思ってないんだけどな……?
「……お前の方が、願い下げなんじゃねぇのか?」
目の前の旋毛 をつんつんと突っつきながら放った言葉に、網野が、がばりと顔を上げた。
「は?」
なに言ってんの? と、苛立ち混じりの瞳が俺を見やる。
責められているようなその視線に、居たたまれなくなった俺の瞳が游ぐ。
女みたいに可愛らしい嬌声をあげる訳じゃないし、柔らかな感触もない。
突っ込んでいるそこは、本当は排泄口で、性器じゃない。
勝手に濡れたりしないし、繋がるまでに準備が必要になる。
たとえ、網野がゲイで、男しか愛せないのだとしても、…もっと可愛らしかったり、綺麗な人など世の中に沢山いる……。
「俺とシても、つまんねぇだろ……」
ぼそっと放った俺の声に、網野の眉間に皺が寄る。
「面白いとかつまんないとか、セックスてそういうもんじゃないでしょ」
馬鹿だなとでも言いたげに、網野は俺の言葉を一蹴した。
「てかオレ、鞍崎さんとが一番、興奮しますよ。いや、もう、鞍崎さんにしか興奮しないっす。他のヤツじゃ勃たないっす」
親指でも立てそうな勢いで、自信満々に言い放つ。
相変わらず、網野の自信は微妙にずれていた。
「お待たせです」
洗面所から出てきた網野は、下着だけを身につけた格好で、濡れタオルを手に戻る。
うつ伏せでベッドに横たわっている俺の傍へと来ると、タオルの温度を確かめた。
腰回りを覆うタオルケットに手を掛け、そっと剥ぐ。
「乗せますよ」
ぽふんっと腰に乗せられた濡れタオルは、冷たすぎない温度で火照る俺の身体から熱を奪う。
相変わらずの甲斐甲斐しさだ。
……その手つきを除いては、だが。
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