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第22話 はぐらかされて、はぐらかす

 重なった唇が、ちゅっと軽いリップ音を立てた。 「やっぱ、鞍崎さんの唇、いいっすね。てか、腹減りません?」 「あぁ、まぁ……」  うつ伏せで転がっていた身体を、ごろりと返し仰向けになる。  腹の減り具合を確認するように、軽く擦ってみる。 「ピザでも取りますか。来るまで寝ててもいいですよ」  スマートフォンを手に、のそのそとベッドによじ登ってきた網野は、俺の頭を持ち上げ、自分の腿の上に乗せた。  所謂、膝枕というやつだ。  なんだか、はぐらかされた気分だ。  腑に落ちない気持ちを抱えながらも、身体の怠さには逆らえず、俺は大人しく目を閉じた。  ―― ピンポーン  インターフォンが鳴る音に、目を覚ます。 「ん……」 「あ、起きました? ちょっと、受け取ってきます」  俺の頭の下から、そっと足を抜いた網野は、スウェットを履きながら財布を掴み、玄関へと向かう。  玄関とリビングの間にある扉を閉められた瞬間、コトンっと音を立て、ベッド脇に置いてあった網野のスマートフォンが転がり落ちた。  落ちてしまったスマートフォンをベッドの上に戻そうと手を伸ばす。  なんだ、これ……。  拾い上げたスマートフォンの画面に目が留まる。  そこに映っていたのは、小佐田の顔だった。  メガネは違えど、同期の顔くらい判別がつく。  妙な色気を伴うこれは、言うなれば…キス顔。  来る前に会ったのは、小佐田だったのか?  普段は冴えない格好をしているが、小佐田の方が俺よりも何倍も綺麗で……。  ―― ガチャンっ  重い玄関扉の閉まる音に、びくりと身体を跳ねさせた。  俺は慌て、網野のスマートフォンをベッドの脇に戻す。 「来ましたよ。ピザ」  箱から薫るチーズの匂いに、んーっと嬉しそうな音を放った網野がテーブルに寄り、届いたビザを広げ始めた。  この写真は何だ?  …なんて、ストレートに聞けない。  “ごめんなさい”  そう言われるのが、怖いから。  “オレ、小佐田さんのコトが好きになったんで、鞍崎さんとは別れたいです”  なんて言われたら、どうしていいか…、わからない。  見なかったコトにしよう。  俺は、何も気づいていない……。  目を閉じ、頭を振るった。  嫌な現実から、目を逸らした。  ……胸の底で、もやもやとした黒いものが渦を巻いた。

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