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第23話 作れない笑顔 <Side 真実
「あいつ、よく気づくよな」
育久が走り去っていった方向に視線を飛ばし、感嘆するように柊が呟 いた。
「こんだけ変わってんのに、俺だってわかったのは、すげぇわ」
自分で崩してしまった髪を弄りながら、言葉を繋いだ。
育久が現れるまでは良い雰囲気だったのに。
オレの胸には、くつくつと煮える苛立ちが広がっていく。
「協力したんだからし返せとか…、体温高すぎて、なんの役に立ってねぇだろっての」
ぼそりと独り言のように呟いた柊は、ふはっと小さく笑った。
なんで、そんなこと知ってんだよ?
体温が高いだなんて、…それは、触れたコトが……触れ合ったコトがある、からなんじゃねぇの?
育久が、今の会社に入ったのも、一目惚れの相手を追い掛けて…、だったよな。
育久が追いかけていたのは、柊……なんじゃね?
「スケッチブックの後ろ姿、網野だったんだな」
見たコトあるような気がしたんだよ…と、繋がる言葉に、オレの不安が確信に変わった。
……やっぱ、ヤってんのかよ。
笑顔のまま、オレに向けられた柊の視線。
視線が棘へと代わり、胸に突き刺さる。
沸き立つ苛立ちと胸の痛みは、オレに笑むコトを拒否させる。
「何、拗ねてんだよ?」
きゅっと眉根を寄せた柊が、不満げな声で問うてきた。
「拗ねてねぇよ」
柊から視線を背け、開いていたスケッチブックを閉じる。
広げていた筆記用具も、さっさと片付け腰を上げた。
嫉妬してるだけ…、ヤキモチを妬いただけだ。
育久と柊の仲の良さに、腹が立つ。
育久の話ばかりする柊が、気に食わない。
過去だとしても、育久が柊に触れたのだと思えば、腹の底が煮えくり返る。
……柊と育久の関係は、続いているのかもしれない。
煽られていた欲情は、ぐつぐつと煮え滾る苛立ちに、綺麗に掻き消されていた。
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