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第25話 着火した怒り

 快感に腹の底は、じんじんと疼くのに、胸の底には、じりじりとした痛みが蔓延(はびこ)る。  何でこんなに上手いんだよ……っ。  ぱくりとオレのペニスを咥えた柊は、溜まる唾液に、わざとらしくいやらしい濁音を立て、舐めしゃぶる。 「育とヤったの?」  崩れてしまい、瞳にかかる柊の髪を掻き上げた。 「あ?」  ペニスを咥え込んだままの柊は、上目遣いにオレを()め上げてきた。  育久なら、やりかねないと思った。  もう少し咥えてとか、強めに扱いてとか、優しく甘やかしながら、エロテクを仕込み、自分色に染め上げていく。  育久なら、簡単にやってのけるだろう、…と。 「育に仕込まれたから、フェラ、そんなに上手なんじゃねぇの?」  柊が育久の色に染まっている気がして、胸糞が悪い。  喧嘩腰に声を放ち、口一杯にオレのペニスを咥える柊の頬を触れた。  ぐらぐらと煮え立つ腹立たしさに、胸を侵食する虚しさを柊にぶつけていた。  オレのペニスが、柊の口から這い出てくる。  唾液にまみれ艶光るそれは、胸底の苛立ちとは無縁のように、更なる刺激を求め硬く張り詰めていた。  柊の口の中に溢れる唾液とオレの体液。  横を向いた柊は、その液体を床へと吐き捨てた。  口許を手の甲で拭いながら、腰を上げた柊の瞳が俺を睨みつけた。 「なぁ? 俺のコト、どんだけ節操なしだと思ってるわけ?」  今までの面倒臭いというような呆れの睨みではなく、本気の(いきどお)り。  怒りに震える柊の手がオレの胸ぐらを掴み、揺さぶるように引き寄せられた。 「確かにお前と付き合う前は、その辺のヤツとヤってたよ。でもな、会社のヤツに手ぇ出すほど飢えてねぇんだよっ」  怒鳴り声と共に苛立ちのままに寄せられた柊の顔は、憤怒(ふんど)に歪む。  刺し殺すかのような柊の瞳の鋭さに、オレは口を開けない。  オレは完全に気圧され、指先ひとつ動かなかった。 「お前と付き合ってから、他のヤツとシたコトねぇんだけど? そんなに浮気して欲しいのかよ? 手当たり次第、食い散らかせってか? 一途な俺は、俺らしくねぇとでも言いてぇの?」  ぎりぎりと握り締められるオレのシャツは、引き千切られそうなほどに突っ張った。  柊の怒りに、オレの小さな嫉妬と大きな勘違いが霞みに飲み込まれていく。 「そんなだらしねぇヤツだと思われてたのかよっ」  悔しさが滲む音を放った柊は、掴んでいたオレのシャツを投げ捨てた。 「悪い、帰るわ」  ぼそりと言い残した柊の背中が、玄関の扉の先へと消えた。

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