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第26話 嫌な空気が纏わりつく <Side 柊
公園でマコトの声に振り返った先にいたのは、会社の後輩である網野だった。
髪型もメガネも変え、ナチュラルではあるものの化粧までしている俺。
網野に俺だと見破られ、苛立ちと焦りと照れが混ざりあったような複雑な感情に、瞳が游いだ。
“恋人”ではなく“モデル”という説明をするマコトに、俺たちの関係を隠そうとしているのだろうと察した。
モデルを頼まれなくなったという言葉に、以前見た後ろ姿のスケッチが網野だったのかと腑に落ちた。
俺ばっかりを描いているのだろうとニヤニヤとする網野。
最初に誘われた時、ヌードモデルを依頼されたコトを思い出した。
絵を描くコトをひとつのツールとして、相手を誘っていたのかもしれない。
そう考えれば、マコトがゲイであるコトを知っているのだろうと読み解ける。
マコトは、俺のセクシャリティを隠すために、“モデル”という言葉を選んだのだと感じた。
網野が鞍崎に惚れているコトに、何となく気づいていた。
鞍崎も然りだ。
2人の様子を見ていれば、わかるヤツは察する。
ただ、鞍崎はクローゼットタイプだろうと感じている俺は、あえて触れないだけだ。
俺を観察したがる網野に、見るなと怒るのも面倒でされるがままに従った。
面倒臭いと思いながらも会話していれば、ばしんっと網野の手が払い落とされる。
今度はマコトに顔を上げさせられた。
目を閉じろと言われれば、俺は素直に従う。
網野のなんの熱もない視線なら、なんとも思わないが、腹底を焼くようなマコトの視線は違う。
マコトに、くいっと顎を持ち上げられた後に、網野と普通に話すコトは難しい。
俺は、網野を追い払うように、ここにいる理由を問う。
案の定、網野はどこかへ行く途中だったらしかった。
浮遊感のあるどこか落ち着かない気持ちを鎮めるように、網野の話題をマコトに振る。
以前、体温で香りの変わる香水の試験協力をしてくれた時だ。
本来なら甘いはちみつの香の中に、レモンの爽やかさが混ざるはずの香水が、網野の高い体温に甘いはちみつ臭しかしなかったコトを思い出し、笑ってしまう。
スケッチブックの後ろ姿が網野だったのかと確認する俺に、マコトは無表情だった。
拗ねているようなその顔に、単刀直入に問うても、拗ねてないと跳ね退けられた。
視線も会わず、会話もない。
嫌な雰囲気を纏いながら、マコトの家へと戻ってくる。
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