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第29話 惨めだ
「……あした、…明日なら会いに行っても、いい?」
遠慮がちに、申し訳なさげに紡がれたマコトの言葉。
会いたがっている……。
その文字が、勝手に『ヤりたがっている』という下衆な言葉へと変換された。
途中で止めたから、…な。
「ぁあ、…わかった。明日、…行く」
電話の向こうで、ほっと安堵の息を吐く音が聞こえた。
「明日、待ってるから……」
名残惜しそうに紡がれたマコトの言葉に、通話を切った。
元に戻るだけだ。
会って、絵を描かれ、セックスするだけ。
『慰めてほしくて、ここにいるんでしょ?』
出会った頃に、マコトに投げられた言葉が頭の中を反芻する。
そうだ。
俺は、この身体を慰めてほしくて、セックスをしてるんだ。
この寂しがりの心を抱き締めてほしい訳じゃない。
そこに、感情は乗せない。
想えば想うほどに、胸の奥底に小さな傷が増えるのなら、何も考えずにマコトの身体に、それだけに溺れればいい。
なにを期待してたんだよ。
なにを求めてたんだよ。
……なんで、こんなに痛ぇんだよ。
俺は無意識に、胸許のシャツを、ぎゅっと握り締めていた。
すっぱりと関係を断ってしまえばいい。
もう会わないと、縁を切ってしまえばよかったのに。
捕まえた手を、放せなかった。
惚れた弱味だ。
身体だけでもいいから、気持ちがなくてもいいから、繋がっていたいだなんて……惨めだな。
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