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第31話 空気を読まないメッセージ
このままでは、気持ちが擦れ違ってしまいそうで不安になる。
でも、迎えに行くというオレの言葉は、却下された。
この短時間で、柊の苛立ちが、すべて消化されたとは思わない。
熱を冷ます為の時間が欲しいというコトなのだろう。
でも、オレは……会いたい。
時間が空けば空くほどに、2人の空気が、ちぐはぐな色に染まっていくような気がした。
「……あした、…明日なら会いに行っても、いい?」
お伺いを立てるオレに、柊はどこか諦めにも似た声を返す。
「ぁあ、…わかった。明日、…行く」
迎えに行きたかったが、柊なりのタイミングがあるような気がして、強く言えなかった。
しつこいオレに、折れただけでもいい。
会ってくれるのなら、それでいい。
顔を見て、その体温に触れて、柊の存在を感じたい……。
「明日、待ってるから……」
オレの言葉に、あやふやな音を放った柊が通話を切った。
―― ピコン
スマートフォンから発せられるメッセージの通知音に、慌て画面を確認する。
そこに表示されたのは、育久の名と短い文言。
『お前ら付き合ってんの?』
―― ピコピコンっ、ピコピコン……
連続で鳴り響く音に、軽く辟易 する。
『わかりやすすぎんだろ』
にやりと下衆な笑みを浮かべる犬のスタンプ付きのメッセージの後、さらに通知は続く。
『飲みに行こうぜ!』
『いつにする?』
うるっせぇなぁっ。
連投してくんじゃねぇよっ。
空気を読まないメッセージに、苛ついた。
今は、お前に構ってるヒマねぇんだよっ。
そもそも、お前のせいだっ。
お前の距離感、どうなってるんだよっ。
パーソナルスペースって言葉を知らねぇのかっ。
画面に向かって苛立ってみても、育久に腹を立てても仕方ない。
八つ当たりだとわかっていながらも、ムカつきは収まらない。
柊との仲違 いを、育久のせいにしたくなる。
あんなコトを言ってしまったのは、育久の素行が原因なのだ、と。
自分は悪くないのだ、と。
すべては、小さな自分が招いたコトのに……。
このまま返信をしようものなら、文句しか返せない気がして、そのまま画面を暗くした。
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