33 / 75
第33話 飲み込まれる疑問
「ごめん。あんなコト言うつもりじゃなかったんだ」
ゆるゆるとリビングへと退きながら、謝罪を紡ぐ。
育久との間にある親密そうな雰囲気に嫉妬した。
会社のヤツに手を出すほど飢えてないし、オレと付き合ってからは他のヤツとはヤってないと怒鳴られ、肝が冷えた。
育久との関係を疑うオレに、やってもいない不貞の疑惑をかけられたコトに、そんなにだらしないヤツだと思っていたのかと、柊は怒ったんだ。
確実に、オレの言葉は柊を傷つけた。
オレの嫉妬から生まれた八つ当たり同然の言葉は、柊の心を刺したんだ。
「本当に、ごめん」
「もういい……」
謝罪の言葉に被さるように、面倒そうに紡がれる柊の声は、オレを凹ませる。
どうすれば許してもらえるのかと、必死に考えるオレの横を通りすぎ、リビングへと足を進めた柊の視線は、床から上がらない。
だらしないヤツだなんて思ってない。
だけど、…だったら、なんで?
「でも、なん、……っ」
なんで育久の体温が高いコトなんて、知ってたんだと問いたかった。
オレの疑いを決定付けたのは、それだから。
でも、その言葉は形をなす前に、柊の唇に飲み込まれた。
離れた唇に、叱るような柊の瞳が、オレを睨み上げていた。
「黙れ。もう“ごめん”なんて、いらねぇって言ってんだろ」
柊の言葉に、口づけに、疑問を飲み込んだ。
傷つけた柊の心を癒したくて、でも、その方法がわからなくて、唇を噛み締める。
「シャワー浴びてくる」
背負っていたショルダーバックを無造作に床に置いた柊は、オレの横をすり抜け、バスルームへと消えていった。
ともだちにシェアしよう!