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第34話 どんなに洗っても、濯いでも <Side 柊

 ざーっと激しい雨のような音を立て、湯がバスルームの床を打つ。  身体を洗いながらも、じわじわとした苛立ちが胸を焦がす。  謝られれば、謝られるほど痛感した。  マコトはオレを、信頼していないのだ、と。  お前は俺が、貞操感のない軽いヤツだと思ってるんだろ…?  言うつもりじゃなかったとしても、腹の底で思ってなければ言葉になどならない。  素直だからこそ、真っ直ぐだからこそ、想像し得ないコトは、……言葉にはならない。  いいだけ男を咥え込んできたんだろ。  誰にでも媚びて甘える天性のビッチなんだろ。  そんな発せられない裏側の声が、聞こえてくる気がした。  人の手垢のついた汚れ物だと言われている気分だった。  確かに俺は、清くはない。  今まで、気持ちもなく沢山の男と身体を重ねてきた。  あんな場所で相手を探している姿を見ていれば、貞操感が欠落していると思われたって仕方ない。  穢いものだと思われたって……弁解のしようがない。  どんなに洗ったって、どんなに:濯(すす)いだって、過去は変わりようが…、ない。  ざっと身体の水滴を拭き取り、俺は下着すらも身につけずに、脱いだ服を片手にリビングへと戻った。  俺の裸体に、マコトは訝しげな顔をする。  床に所在なさげに置かれているショルダーバックの側に、服を放った。  呆然と立っているマコトの手首を掴み、リビングを抜け、奥の寝室となっている洋間へと足を進める。 「描くか?」  ベッドの側でマコトの手を離し、片足だけを折り曲げた中途半端な胡座の格好で端に座り込んだ。  見上げる俺に、マコトの顔が寄る。 「本当に、もう怒ってない?」  触れそうなほどの間近な距離で紡がれた声に、その唇に噛みついた。

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