44 / 75
第44話 ディスってんじゃねぇよ
焼き鳥が美味しいと評判の居酒屋へと足を踏み入れ、個室に通された。
ビールと簡単なつまみを頼み、徐に口を開く。
「なぁ。お前んとこ、今、忙しいのか?」
テーブルの上に広げられているお勧めメニューに瞳を据えながら、声だけを育久へと向けた。
「ん?」
オレの言葉の意図を勘繰るように、育久は疑問符のつく声を投げてくる。
「柊が、さ、……」
歯切れ悪く柊の名を出し、ちらりと瞳を向けた。
視線の先で、育久がにたりと笑む。
「やっぱ、付き合ってんじゃん。ん? 会えてねぇの?」
思った通りだとニヤニヤした育久は、オレの問い掛けの真意を探る。
「いや。会ってるし、ヤるコトやってっけど、…距離あるっつうか、素っ気ないっつうか……。セフレっぽいっつうか…」
育久相手に言葉を濁す必要もないので、オレは明け透けに話す。
視線を彷徨 わせ、ぶつぶつと呟くオレに、育久は記憶を辿るように視線を上げた。
「お待たせしましたー」
コンッと軽く仕切りの壁が叩かれる音と共に店員が姿を表す。
お通しの枝豆と一緒に冷えたビールをテーブルへと並べた。
「開発部、そんなにハードじゃねぇと思うけどなぁ……」
育久は、店員の相手をしながらも、ぼそりと声を漏らした。
すべてをテーブルへと乗せた店員が居なくなったのを確認し、オレは溜め息と共に、情けない声を零した。
「やっぱ、まだ怒ってんのかぁ……」
目の前のビールジョッキに手を掛けたままに、がくりと肩を落とす。
「なに怒らすようなコトしたんだよ? 浮気でもした?」
届けられたビールを呷 りながら、育久が視線を投げてきた。
「してねぇよ」
お通しの枝豆に押し出し、口の中へと放りながら、育久を睨 める。
「まぁな。お前そんな器用じゃねぇし。この人って決めたら、そいつしか見えねぇ感じだもんなぁ」
言外 に、オレが不器用だとディスり、あははっと楽しそうに笑う育久に、若干の苛立ちを覚える。
ともだちにシェアしよう!