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第44話 ディスってんじゃねぇよ

 焼き鳥が美味しいと評判の居酒屋へと足を踏み入れ、個室に通された。  ビールと簡単なつまみを頼み、徐に口を開く。 「なぁ。お前んとこ、今、忙しいのか?」  テーブルの上に広げられているお勧めメニューに瞳を据えながら、声だけを育久へと向けた。 「ん?」  オレの言葉の意図を勘繰るように、育久は疑問符のつく声を投げてくる。 「柊が、さ、……」  歯切れ悪く柊の名を出し、ちらりと瞳を向けた。  視線の先で、育久がにたりと笑む。 「やっぱ、付き合ってんじゃん。ん? 会えてねぇの?」  思った通りだとニヤニヤした育久は、オレの問い掛けの真意を探る。 「いや。会ってるし、ヤるコトやってっけど、…距離あるっつうか、素っ気ないっつうか……。セフレっぽいっつうか…」  育久相手に言葉を濁す必要もないので、オレは明け透けに話す。  視線を彷徨(さまよ)わせ、ぶつぶつと呟くオレに、育久は記憶を辿るように視線を上げた。 「お待たせしましたー」  コンッと軽く仕切りの壁が叩かれる音と共に店員が姿を表す。  お通しの枝豆と一緒に冷えたビールをテーブルへと並べた。  「開発部、そんなにハードじゃねぇと思うけどなぁ……」  育久は、店員の相手をしながらも、ぼそりと声を漏らした。  すべてをテーブルへと乗せた店員が居なくなったのを確認し、オレは溜め息と共に、情けない声を零した。 「やっぱ、まだ怒ってんのかぁ……」  目の前のビールジョッキに手を掛けたままに、がくりと肩を落とす。 「なに怒らすようなコトしたんだよ? 浮気でもした?」  届けられたビールを(あお)りながら、育久が視線を投げてきた。 「してねぇよ」  お通しの枝豆に押し出し、口の中へと放りながら、育久を()める。 「まぁな。お前そんな器用じゃねぇし。この人って決めたら、そいつしか見えねぇ感じだもんなぁ」  言外(げんがい)に、オレが不器用だとディスり、あははっと楽しそうに笑う育久に、若干の苛立ちを覚える。

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