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第46話 恋人自慢
「“飢えて”……ね。ははは」
空笑 う育久の声が響いた。
視線の先の育久の頬が、ひくひくと引き攣る。
「オレは、手っ取り早く身近で処理しようと思って、手ぇ出したわけじゃねぇから。4年越しの片想いの結果、…純愛だし」
会社の人間に手を出すコトを下衆に解釈され、社内恋愛であろう育久自身が“飢えている”と表現された気になり、不興を買ったらしい。
いちいち育久の機嫌を取るのも面倒で放っておく。
再び、テーブルの上の枝豆へと手を伸ばし、思い出す。
「そうだよ。お前、好きな人追いかけて今の会社入ったんだよな?」
きゅっと眉根を寄せて問うオレに、育久は訝しげな瞳を返す。
「そうだけど?」
ヤってねぇとしても、育久は柊のコトが気に入っているのではないかと疑いの目を向けるオレ。
オレの視線に意図を察した育久は、迷惑極まりないというように、心底、嫌そうな顔をした。
「違ぇし。オレの恋人、会社の先輩だけど、小佐田さんじゃねぇっつうの」
小佐田さんより全然可愛いし…と、恋人の顔でも思い浮かべているのか、育久は、ふへへっと間抜けな顔で笑む。
「いや。柊より綺麗な人なんていないだろ」
当たり前のコト過ぎて、さらりと声を放った。
少なからず、オレは柊より綺麗な人を見たコトがない。
「それは、お前の好みってだけだろ。確かに小佐田さんは綺麗だと思うけどさ。オレの恋人の可愛さには敵わねぇよ」
片方の口角を上げ、自慢げな笑みを見せる育久。
何故だが、柊と育久の恋人の自慢大会と化していく。
しっかりしてそうな見た目とは裏腹に、ちょっと不器用な彼が可愛くて仕方ないと惚気る育久に、隙がなく自分の魅力を知っている柊に惚れてしまうのは避けようがないと必然をアピールするオレ。
育久とオレの好みは根本的に違う。
ベースが違うオレたちの自慢大会は、論点がずれ、いつまで経っても勝敗はつかない。
マジで可愛いと力説する育久に、本気で惚れているのだと、痛感する。
昔の下がゆるゆるだった軽薄な育久はどこへやらだ。
すっかり一途な男の出来上がりだ。
「まぁ、恋人に節操なしだと思われているって…、その辺のヤツと、誰とでも寝てるみたいな尻軽発言されたら、傷つくわなぁ……」
サイテーとフラットに紡がれたの蔑 みの言葉が、ぶつけられた。
「そんなつもりじゃ、なかったんだよ……」
話を振り返す育久に、面白くなさげに声を返した。
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