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第47話 スキンシップを反省する <Side網野

「でも、どうやったら、オレとヤったって、…仕込んだって結論まで発想が飛ぶわけ?」  飛躍しすぎの於久の思考に、オレは呆れ問うた。  オレは、普通に話をしただけだ。  確かに小佐田さんの化粧が気になり、多少のそわそわ感があったかもしれないが、あの程度で肉体関係まで疑われたのでは、たまったもんじゃない。 「お前と柊、妙に仲良さげだったし。アイコンタクトなんてしやがって…。お前いなくなっても、お前の話ばっかするし……」  尻窄みになる声に、於久は拗ねるように視線を背けた。  ぶははっと、思わず吹き出した。 「ちょっと話しただけで、ヤキモチかよ。ちっさっ」  ケッと小馬鹿にするように言葉を放ったオレに、図星をつかれた於久は逆ギレする。 「うるせぇよっ。お前が柊に、べたべたべたべた触っからだろうがっ」  キッと、オレを睨む於久。  そういえば、昔、鞍崎さんにも言われたな。  女の子にベタベタ触ってるって…。  オレの人懐っこさの、垣根のなさの成せる技だが、そのせいでチャラくも見える。  気ぃつけねぇとな。  反省しながらも、売られた喧嘩は買ってやろうと、見下すような瞳を於久へと向ける。 「わざとじゃねぇし。オレは誰にでもそうしてるだろうが。いちゃもんつけんじゃねぇよ」  オレの目の前で、グルグルと唸る大型獣の顎に折り曲げた人差し指を掛け、ぐっと持ち上げてやる。  顎くいされた於久は、冷ややかな瞳で睨めてくる。 「お前にされても、トキメかねぇから。キモいコトすんな」  ぱしりとオレの手を跳ね退けた於久は、気持ち悪さを洗い流すかのようにビールを呷る。 「お前のコト、子供体温で役に立たないとか言っといて素直にいうコト聞いてっし……」  面白くなさげに声を放った於久が、はっと開いた瞳でオレを見やる。 「そうだよ。なんでお前の体温が高いとか柊が知ってんだよ。そもそもはそこなんだよ」  オレの体温が高いコトを知っている = エッチしたコトある……、って?  ……思考回路、単純すぎんだろ。 「仕事だよ」  あまりにもストレートな於久の思考に、呆れた声が出た。 「体温で香りの変わる香水の試験手伝ったの。その時の話だわ、ばーか。なんでもかんでも、セックスに結びつけてんじゃねぇよ」  じとっとした瞳で()なすオレに、はあぁっと安堵と後悔が混じった溜め息が、於久の口から零れた。 「嫉妬で柊を傷つけたのは……、自分の小ささ誤魔化そうとして、八つ当たりしたのは反省…てか、もう猛省の域で後悔してるわ」  片手で目許を覆った於久は、これでもかという程にがっくりと肩を落とす。  頭を振るった於久の瞳が、再びオレに据えられた。 「でも、柊にべたべた触ったコト、許してねぇから」  不快感が溢れる半目でオレを見やった於久の顔がにたりと笑んだ。 「お前のもんにも、いつか触ってやる」  ぐっと握った拳を見詰めながら、子供のような仕返し方法を口にする於久の言葉は、適当に流しておいた。

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