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第49話 視界に見切れた鞍崎の姿
網野の瞳は無遠慮に、俺をじろじろと観察し続ける。
「なんか…不健康感、プラスされてません?」
心配げな空気を瞳に乗せ、問うてくる網野に、俺は眉根を寄せた。
「プラスってなんだよ。もっさりな上にってコトか?」
失礼なやつだなと言わんばかりに、怪訝な顔をする俺。
「ちゃんと休めてます? なんか、顔色悪いですよ?」
再び、俺の頬へと伸ばされた網野の手が、触れる直前に拳に代わり去っていく。
妙なぎこちなさを纏う網野の動きに、気持ち悪さを覚えた。
「なんだよ、気持ち悪ぃな……。ちゃんと休めてるし、体調も悪くねぇよ」
「於久とギクシャクしてるせいですか?」
「は?」
なんの脈略もなく出されたマコトの名に、喧嘩腰の音が漏れた。
睨むように向けた俺の瞳には、ミーティングルームへと視線を飛ばす網野の姿。
次の瞬間には、手首を掴まれ、そのままミーティングルームへと引き摺り込まれていた。
ミーティングルームに入る寸前、俺の視界の端には、網野と同じように段ボールを抱えた鞍崎の姿が見えていた。
4、5人程度の小さな会議用の部屋。
脇に抱えていた段ボールをデスクの上に置いた網野は、椅子に腰を下ろし、目の前の机を叩いた。
無視をしてここを出るコトも出来たが、俺は素直に網野の対面に腰を据えた。
「なんだよ」
不機嫌極まりない声を立てる俺に、網野は困ったように眉尻を下げた。
「あいつ、めっちゃ反省してましたよ」
あいつと濁された対象人物は、マコトだと察しがつく。
許してやってもらえないかと請うように、俺を見やる網野は言葉を繋いだ。
「間違った、みたいで。オレの、……えー…と」
網野にしては珍しく、言葉を詰まらせた。
游ぐ瞳は、言葉にしていいものかと悩んでいるように見える。
俺は続きを待つように、黙って網野に視線を据えていた。
「あー、もうっ。オレの好きな人が会社の先輩だって知ってて…っ」
自棄になったように口火を切った網野に、俺は、さらりとその対象者の名を口にする。
「鞍崎だろ」
「ぬぇ?!!!」
変な声で驚きを露にする網野に、思わず吹き出した。
「ふははっ。バレてねぇと思ってたのか?」
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