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第52話 関係なくない網野
話せば話すほどに。
言葉にすればするほどに。
自分の汚れが、穢れが、擦り込まれていく気がした。
「違うんですって!」
一段上がった網野の声が、降ってきた。
「小佐田さんがオレの体温、高いの知っていたから、ヤったんだって誤解してたんすよ。嫉妬から小佐田さんのコト傷つけたの、すんげぇ反省してるんですって。マジであいつ、尻軽だなんて思ってないんですって」
ぶんぶんと頭を振るった網野は、深読みしすぎだと俺を否定する。
ふと、網野の動きが、ぴたりと止まった。
「うわ……オレのせいじゃん。……オレが小佐田さんの化粧が気になって触っちゃったから、あいつの嫉妬心、がっつり煽っちゃった結果じゃん……」
瞬間的に青褪めた網野の申し訳なさげな瞳が、様子を窺うように俺を見やる。
「オレ……関係なくないじゃないですか」
やべぇ…と呟いた網野は、瞳を游がせ、こめかみをぽりぽりと掻いた。
んっと軽い咳払いをし、再び俺へと瞳を据えた網野が口を開いた。
「筋違いな八つ当たりなんで、あいつの言葉にそんな深い意味も、裏の意図も無いです。オレが小佐田さんに近付いたから、あいつがヤキモチ妬いたって、それだけなんですよ。言っちゃった言葉は取り消せないけど。…好きだから…、だから、嫉妬したりヤキモチ妬いたりするんじゃないんですか? あいつが本気で小佐田さんのコト好きだから、嫉妬したってコトでしょ?」
本気で好きだから、妬いたヤキモチ。
親密そうに見えた俺と網野の関係に、拗ねた結果。
穢いと思っての言葉じゃなくて、“柊はオレのものだ”という独占欲からの言葉。
「それで小佐田さんのコトを傷つけちゃったのは本末転倒だけど……ぁあああ、もぉ。やっぱ、オレのせいだぁ」
頭を抱えた網野は、どんどんと勝手に後悔の沼に沈んでいった。
そろそろ手を差し伸べてやらなければ、関係のないところで網野は無駄に反省し続けそうな雰囲気だ。
誤解だと主張する網野と、マコトの嫉妬を認めない俺との会話は、平行線を脱しない。
「わかったよ。マコトと話す。もう、気にすんな」
いつまでも結論が出そうもない不毛な会話に、俺は強制的に、この場の終止符を打った。
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