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第55話 簡単に傾く天秤

 網野が心変わりする可能性なんて、いくらでも思いつく。  俺のような、なんの取り柄もない堅物よりも、仕事ができるスマートな美人の方がいいに決まっている。  ……小佐田との方が、誰が見たって釣り合っている。  俺と小佐田が乗った天秤は、意図も簡単に小佐田の方に傾いた。  でも、普通に考えれば、網野の想いは叶わない。  小佐田が異性愛者であれば、網野の気持ちは届かない。  勝手に想像して、網野を憐れむ自分。  でも心の隅で、網野を奪われるコトはないのだ安堵する性根の悪い自分。  性格悪いな……。  ほっとしている自分に嫌気が差す。  鬱々とする気分を流すように、ウーロンハイを、ぐっと煽った。  でも、それならなぜ、あんな写真を網野が持ってたんだ……?  あんな写真、普通は送らない。  あれはどう見てもキスを待っているかのような、そんな色香の漂うものだった。  でも、ユリさんに相談するコトでもない。  網野に聞けばいいだけの話だ。  だけど俺に、そんな勇気はない。  俺の思考は、堂々巡りを繰り返した。  飲みに行ってから1週間後の今日。  網野は以前にも増して、小佐田を気に掛けている。  この前、飲みに行ったという相手も小佐田だったのではないかと根拠のない憶測が、頭を掠める。  部内ミーティングが終わり、自席に戻る。  俺の元に届けられていた新製品が入っているであろう段ボールを開ければ、そこにあったのはユリさんへと届けたアイライナーの試供品だった。

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