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第58話 吐き出す記憶
自分で自分の首を絞め、苦しくなる俺に、マコトは、いつのまにか苛立ちを鎮火させていた。
「だって、笑えなくしたのオレだから。……オレと居ても楽しくないなら、傍に居る意味ねぇし」
パンツの裾を指で弄りながら、いじけるように言葉を紡ぐ。
「オレは、柊を笑顔にしたいし、幸せにしてぇ。離れた方が、柊の為かもって考えたけど…、別れんのも嫌で……」
どうしようもなくて、とマコトは肩を落とした。
「あんなとこで男、漁ってたんだもんな。尻軽だと思われて…、穢ぇと思われて当然だよな」
投げ遣りに呟いた俺の独り言に、マコトはうんざりするように声を荒らげた。
「そんなコト思ってないって。育とヤったのって聞いたのも、そんなつもりじゃない」
じわっと顔を上げたマコトは、軽く睨むような瞳を俺へと向ける。
「柊と育の仲の良さに嫉妬した。でも、そんな些細なコトに嫉妬してるって、小さいヤツだと思われたくなくて……」
はあっと、疲れたように息を吐いたマコトは言葉を繋ぐ。
「腹立つけど、カッコ悪いとこ見せたくないし、ぐっちゃぐちゃになってるときに、育の体温がどうだとかって、…育の話ばっかするし…ヤってるんじゃないかって見当違いな疑惑に捕らわれて、あんな嫌な聞き方になっただけだし……」
マコトは俺が尻軽ビッチだとは、思っていない……。
ちゃんと、俺を好き、…なんだ。
俺のコトを考えてくれている。
でも。
それならば尚の事。
マコトが穢いと思っていなくても、俺が汚れているコトは、変えようのない事実だ。
わかっていたんだ。
マコトがそんな裏のある言葉を放つわけがないって。
それでも、俺には負い目があって。
マコトの言葉を引き金に、古傷が開いてしまった。
謝罪の念を込めるように、しょんぼりと肩を落とすマコトに、俺は口を割る。
「お前が疑ったフェラテクは、昔の男のせいだよ。好きだから、悦んで欲しいと思うのは当たり前だろ。そいつのために磨いたんだよ」
心の奥底で燻る嫌な記憶を吐き出した。
好きだから、傍にいた。
でも、そこに相手の気持ちなど微塵もなく。
ただ、俺の気持ちが削られた。
欲の捌け口として、ただ慰める物として扱われていたコトだって知っていた。
「他にも、お前じゃない影が、俺の中には、いっぱいある。いつまで経ったって、綺麗になんて消えねぇんだよ」
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