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第60話 駄々を捏ねる心

 ぽろっと瞳から、感情が零れた。 「あぁ、くっそ。こうなるから嫌だったんだよっ。みっともねぇっ」  昂った感情に、涙が溢れた。  マコトを好きな気持ちが、離れたくないと涙した。  人前で泣くなど、恥ずかしい。  だが、一旦溢れ出したそれは、次から次へと()り上がり零れていく。  こんな姿を曝したくはない。  俺は、マコトを傷つけるコトしかできない。  欲に溺れ、本能のままに生きていたから。  過ぎた過去は変えられないから、どうやったって癒せもしない。  好きな人に、幸せのひとつも渡せない。  好きな人が傷つく姿が、自分の胸をも掻き毟る。  それなのに、傍に居たいと心が叫ぶ。  離れたくなくて、放したくなくて、でも、どうにもできなくて。  傍にいれば、マコトが傷つくだけなんだ。  傷ついてでも、俺の傍にいろと叫びたい。  だけどそんな我儘は、俺の口は紡げない。 「やっちまったコトは、無かったコトになんて出来ねぇんだよっ」  俺の口は、消せない過去を嘆くだけ。  言葉になんか出来ない気持ちに、弾けた心は暴走する。  まるで駄々を捏ねる子供だ。  欲しがって泣いたって、それは俺の手の中には収まらない。  わかっているのに、心はそれを求めて泣き(わめ) き、涙を溢れさせた。 「一旦、汚れたもんは、綺麗になんてならねぇんだよっ。オレは、お前じゃない、色んなヤツに染まってんだよっ」  染まりたくても、染まれない。  俺の根っこは、高校で恋したあいつに染まっている。  そいつを悦ばせたくてフェラテクを磨き、身体が目当てだと気づいても、俺が好きならそれでいいと傍に居た。  高校を卒業すると同時に自然消滅した関係。  身体だけの関係だった上に、心を曝してぶつかってもいない。  消化不良の感情が、いつまでの心の奥底で燻り続けている。  それを擂り潰すように、色んな男と身体を重ねた。  いつまでも引き摺り続ける不完全燃焼のこの想い。  胸の底にしまい込んでいた感情は、罠に嵌まった獲物のように足掻くだけで逃げていかない。 「お前のコト好きだって思ったって、傍に居たいって思ったって、昔の男の影ちらつかせて…お前、傷つけるコトしか出来ねぇじゃんっ」  きっと、あのままマコトと別れていたら、俺は同じ轍を踏んでいた。  俺の心の奥底でマコトへの想いが燻り続けた。  叶わない恋心に、じくじくとした痛みが延々と胸を(さいな)み続けた。  忘れられない男に、慰み物にしかならないこの身体に、俺の心は捕らわれ続け、いつまで経ったって、好きな人を傷つけ続けるコトしか出来ない、ガラクタのまま。  曝したからと言って楽にはならない。  それでも、燃えカスすら残らないほどに叫んだ想いは、少なからず俺の傷痕を減らすと思いたい。

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