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第61話 何度も何度も染め直す

「汚れたんじゃなくて、経験を積んだだけでしょ」  落ち着いた声色で紡がれたマコトの言葉に、涙だけが静かに落ちる。 「オレは、どんなに他の人で染まってても、オレで染め直す。何回も何回も、毎日毎日染めてりゃいつか、オレに染まるでしょ」  ふわりと頬が、マコトの両手に包まれた。  触れられた頬に上げた瞳の先で、どこから沸いてくるのかわからない自信しかない笑みを、マコトは浮かべる。  行かないでと嘆くように、ぼろぼろと零れ続ける俺の涙を、マコトの親指が拭っていく。 「育の…他人の手垢がついていても、自分の色に染め直すつもりだったから。他の男の影が見えたら、オレはそれを1つずつ潰していくだけだから」  俺の涙ごと、マコトの右手が頬の横で拳を(かたど)る。  ぎゅっと握り閉められたその手は、俺に纏わる影を引き剥がす。 「オレは傷ついたりしてないから。嫉妬して拗ねたりはするかもだけど、柊が笑ってくれるなら、たとえ傷ついてもすぐ治るし」  再び開いたマコト右手は、俺の頬を優しく包む。  頬から離れた左手は、俺の右手を包み込んだ。 「泣いたって、喚いたって、暴れたって、……オレはこの手を放すつもりないよ。オレが好きで、オレの傍に居たいって言ってくれるなら、オレは柊のコト、逃がすつもりないよ。傷ついても、柊の笑顔見れたら、チャラだし」  罠を外して、傷を癒して、でも、野には放たない。  俺は、甘い甘い新たな罠に捕まった。 「だからさ、笑ってよ。過去なんて、どうでもいいから。柊が今、オレを好きならそれでいいから」  こつりと合わさった額に、頬に触れていたマコトの手が滑り、俺の頭を撫でた。  マコトの優しい手つきに、余計に涙が溢れた。  額を離したマコトは、俺の頭を肩へと預けさせた。 「変なこと言って…、傷つけて、ごめん」  耳許で哀しげに紡がれるマコトの声に、胸が痛い。  謝らなきゃいけないのは、俺の方だ。 「でも、本当に過去なんてどうでもいいんだ。柊の過去にオレが傷つくコトなんて、ないから。そろそろ泣き止んでくんないかな……?」  頭を、ぽんぽんと叩かれる。  それでも、俺の涙は、なかなか止まらない。 「ごめん………真実(まこと)。好きで、…ごめん」  俺の言葉に、くすりと小さくマコトが笑った。 「そこは謝んないでよ。初めての“好き”が“ごめん”とワンセットとか…なんか、切ないんだけど?」  言葉に、思わず顔を上げた。  言ったコト、なかったか?  兎のような真っ赤な瞳で見詰めた先で、マコトは笑う。 「言われたコトなかったし。でも、今聞けたから、いいや」  するりと寄ったマコトの顔が、俺の鼻先にキスを見舞い、離れていく。 「好きだよ、柊。オレは、柊の全部が好き。身体も、心も、魂も…いっそのこと過去も含めて全部、丸ごと好きんなるからね」  心配しなくていいと言うように、マコトは嬉しそうに微笑(ほほえ)んだ。

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