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第62話 文字通りの2度見 <Side 網野
於久と小佐田さんの仲違いは、完全にオレのせいだった。
小佐田さんの化粧に興味を惹かれ、べたべたと触り、じろじろと観察した結果、於久のヤキモチが許容量をオーバーした。
オレとヤったのかなどと、小佐田さんに謂 われもない疑いを掛けた於久。
やってもいない浮気を疑われれば、小佐田さんが怒るのも当然だ。
於久の言葉を小佐田さんは、自分は誰とでも寝る尻軽で、性処理のためだけの相手だと解釈した。
於久に腹を立てているというより、セフレでいいと割り切っているようにすら見えた。
自分のせいだと勘づき、後悔のどツボに嵌まるオレ。
気にするなと言われたが、気にしない訳にはいかない。
でもオレには、どうする手立てもない。
鞍崎さんも参加していた販売戦略会議が終わり、ミーティングルームを後にする。
ミーティングルームを出て、鞍崎さんに声を掛けようとした時、鞍崎さんと同じ部署の山南 さんと立ち話をしている小佐田さんが視界に入った。
オレは思わず、小佐田さんの顔を2度見した。
いつも通りのもっさり感は変わらないが、さらに目許が腫れぼったくなっていた。
「じゃ、そういうことでヨロシク」
軽く手を上げ、話を締め括った山南さんに鞍崎さんが寄る。
「山南。データ入力、終わった?」
「あぁ。それよ。こんなん出たから、小佐田にちょっと直してもらおうと思ってさ」
手に持っていたタブレットを見せる山南さんに、鞍崎さんが覗き込む。
山南さんと鞍崎さんが、話しながら並んで自席に戻っていった。
「小佐田さん」
オレは、開発部へと戻ろうとしている小佐田さんを呼び止めた。
オレの声に、瞳を上げた小佐田さんは、なんだ? と視線で問うてくる。
「どうしたんすか?」
小佐田さんの目許に手を伸ばしそうになり、慌て引っ込めた。
その手で、自分の目許を叩いて見せる。
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