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第64話 大パニック
確かに、ここ1週間ほど、於久たちに構いすぎていた感は否めない。
でも、自分のせいで2人が破局などしたら、目覚めが悪いにも程がある。
それに、オレは、小佐田さんに極力、触れないようにしていた。
そんな親密な空気感を醸していたつもりもない。
小佐田さんと別れ、自席に足を向けながら、鞍崎さんへちらりと視線を送った。
微かに交差した視線に、鞍崎さんの瞳が逃げるように逸らされた。
……これは、ヤバい。
普通の人が見れば、違和なんて感じないだろう。
でも、オレにはわかる…、わかってしまった。
あの仕草は、オレの気持ちを疑っているサインだ。
何事もなかったかのように、自席に座り、考えを巡らせる。
でも、オレの心の中は、大パニックだ。
小佐田さんとは何もないですって伝えればいいのか?
でも、おかしくね?
なんで、急に小佐田が出てくるんだとか言いそうだよな?
ヤバい、ヤバい…、どうしたらいいんだ?
小佐田さんを気にしていたコトは確かだけど、なんて説明すればいいんだ?
変なコト言えねぇし、余計に変な誤解、生みそうじゃね?
鞍崎さんが絡むと冷静なオレは、すぐにどこかに旅立ってしまう。
「……の、……網野っ」
「はいっ」
呼ばれているコトに気づくまでに暫く掛かってしまった。
声の主、山南さんへと瞳を向ける。
視線の先は、山南さんの呆れ顔だ。
「お前、大丈夫か? これ、昨日のクレームの……、あ、やべ。小佐田に渡すの忘れたっ」
先程まで話していたのに渡し忘れたと、開封済みのチークを手に、顔を歪めた。
チャンスっ。
「あ、オレ持っていきますよ」
独りで考えていても埒が明かない。
小佐田さんのコトを隠しながら、鞍崎さんの誤解を解くには無理がある。
小佐田さんに指南を仰ごう…いや、もう、小佐田さんに丸投げしようと、オレはそれを届ける役目を買って出た。
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