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第65話 放っておけなんて言いません
オレは、開発部へと赴き、小佐田さんのデスクを訪れる。
「山南さんから預かってきました」
手にしたチークを小佐田さんへと差し出した。
物を見た小佐田さんが、訝しげな雰囲気を浮かべる。
「なんでこれ、お前が持ってきてんだよ?」
オレは、ぐぐっと眉間に皺を寄せ、言葉にはせずに事態を伝えようと試みる。
察したらしい小佐田さんは、小さく息を吐き、腰を上げた。
開発部から少し離れた階段の踊り場へと誘導されたオレは口を開く。
「緊急事態です。小佐田さんのコト黙って、鞍崎さんの誤解を解くのは難易度高いっす」
開口一番に泣き言をいうオレに、小佐田さんがあからさまな溜め息を吐いた。
先程渡したチークを掲げ、じとっとした瞳をオレへと向けた。
「山南から預かってきたんだよな? 鞍崎の前で」
小佐田さんの言葉に、あっと小さく声が漏れた。
「更なる追い討ちかけてどうすんだよ? 墓穴掘りすぎだろ」
オレの行動に、小佐田さんは呆れ笑う。
鞍崎さんの誤解を解こうと躍起になっているのに悪化させてしまった自分の行動に、そんなオレを笑う小佐田さんに、気持ちが焦る。
「小佐田さんのせいですからっ。オレは、放っておけなんて言いませんよっ」
ガウガウと吠えかかる犬のように声を放った。
「俺のせいじゃねぇだろ。責任転嫁してんじゃねぇよ」
唖然としながら放たれる小佐田さんの声は、呆れが混じる。
小佐田さんは、手にしたチークで掌を打ちながら、考え事をしているかのように瞳を巡らせた。
見捨てないでと言わんばかりに、オレは瞳で小佐田さんに縋る。
「土曜、花火大会あるよな?」
小佐田さんの突飛な質問にオレは首を傾げる。
「穴場あるんだよ、花火見るのに。俺はマコトと行くから。俺のコト、暴露った方が早ぇだろ?」
手でも繋いでおけばいいだろ? と、小佐田さんは口角を上げた。
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