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第71話 乱入者

 網野は俺の手に縋るように、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。 「どうして伝わんねぇの……?」  ぼそりと呟いた網野は、ぐいっと俺の腕を下に引きながら、半泣きの顔で恨めしそうに()め上げる。 「オレの気持ち無視っすか? 見た目や雰囲気だけで、…釣り合うとか釣り合わないとか、そんなの関係なくないですか? 勝手に自己完結しないでくださいよ。オレが一緒に居たいのは、鞍崎さんなんですって何回言えば、わかってもらえるんすか?」  網野の瞳が、潤んで見えた。 「それに、小佐田さんは可愛く無……」  ―― ばこっ 「いっ」  目の前に降ってきた紙袋が、網野の頭を殴打した。  網野の頭を叩いた紙袋の持ち主は、網野と同じくらいの身長の男だった。  じとっと見下ろすその視線に、網野の知り合いだろうと察した。  咄嗟に俺は、網野から離れようと動いた。  でも、掴まれたままの手が俺を逃がさない。 「可愛く無いとか、お前に言われたくねぇわ」  ケッと声を放った男の足が、しゃがみ込んでいる網野の腿を軽く小突く。 「オレのもんにケチつけてんじゃねぇよ」  俺は、ぽかんと男を見上げていた。 「初めまして、於久です。この前、こいつと飲みに行った友人です」  自己紹介をしながら、於久の視線がちらりと網野を見やる。  何が起こっているのかと唖然としている俺。  呆然としている俺を置き去りに、於久の姿が視界から消えた。 「……っ」  俺の後ろへと回った於久に、きゅっと腰を両手で掴まれ、息を飲んだ。 「う、わ。ほっそいですね」 「なに触ってんだよ!」  がばっと勢いよく立ち上がった網野が、紙袋がぶら下がる於久の腕を掴む。 「お前がやってんのは、こういうコトなんだよ。少しはパーソナルスペースっつうもんも意識しやがれ」  叱咤するような声を放った於久は、俺の腰から尻の横へと掴まれていない手を滑らせる。 「ま、浴衣、やろうと思って。渡すにしてもサイズわからないとあげられないからさ」  網野に掴まれた片手で紙袋を掲げながら、さわさわと俺の腰を触る於久。  網野は俺に触れる於久の手を剥がそうと腕を伸ばす。 「浴衣なんて、そんな厳密な採寸要らねぇだろっ」 「いっ」  俺の後ろから揶揄うような声を放っていた於久の口から、悲鳴にも似た音が漏れた。 「浮気してんじゃねぇぞ」  声に視線を向ければ、そこには小佐田が立っていた。  小佐田は、俺の腰を触っていた於久の手の甲を(つね)っている。  小佐田の姿に、網野は於久の手を、ぱっと放した。 「お疲れ、鞍崎。こいつ、俺の彼氏」  色々なコトが起こりすぎ、小佐田の言葉が、頭に入ってこない……。

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