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第72話 紛らわしい気遣い
あまりにもあっさりとした小佐田のカミングアウトに、彼氏の紹介までされた俺は、驚きに瞬きが止まらない。
俺は、そろりと身体を反転させ、正面から小佐田と於久を、まじまじと見やる。
於久から手を放した小佐田は、平然と言葉を繋ぐ。
「と、お前らのコトは、わかってるから。網野がアウティングした訳じゃなくて、俺が気づいていただけだから、網野のコト、責めるなよ?」
あまりにも、ぽんぽんとテンポよく話され、俺の頭が追いつかない。
抓られていた手を軽く擦りながら、於久が口を開いた。
「育と柊をお似合いとか言わないでもらえます? 柊はオレのなんで」
小佐田の腰に腕を回し、ぐっと引き寄せた。
満更でもない小佐田は、こっちが本物のカップルだというように、於久と自分を交互に指差す。
俺のシャツの裾が後ろから、つんっと引かれる。
「綺麗とか可愛いとか、似合うとか釣り合うとか、そんなんで好きになった訳じゃなくて。オレは、鞍崎さんが…、鞍崎さんだから、好きなんですよ」
振り返った俺の瞳に映った網野が、くぅーんと寂しげに鳴いていた。
「わかった。わかったから」
背を向けたままに、俺の服の裾を掴む網野の手を、ぽんぽんっと叩いてやる。
危ない……。
お前は俺のコトが好きなんだよな、なんて自意識過剰のナルシスト発言を、また、させられるところだった。
深呼吸で動揺を鎮め、振り返り見上げた視線の先で、網野の顔が、きゅうっと歪む。
「なんで、オレが小佐田さんのコトを好きってなったんですか? 話していただけですよね? 気をつけて触らないようにもしてましたし……」
不思議で堪らないと言わんばかりの顔で、俺に問う。
「そういうことかよ。触るの躊躇ってる方が余計に意味深に見えんだろ」
横から刺さった呆れるような小佐田の声に、胸の奥がきゅっとする。
そうだ。
小佐田に触れかけて止める網野の仕草に、別の意図を感じていた。
その仕草にも心を抉られたんだ。
でも、触れるコトを躊躇っていたわけじゃなくて、触らないように注意していただけなのか…。
……紛らわしい。
でも、一番の要因は。
「悪い、お前の携帯見たってか、見えたんだよ。小佐田の……」
キスを待っているようなその顔が、脳裏に浮かぶ。
その先を紡ぎたくなくて、俺は顔を正面へと戻し、言葉を濁す。
面白くなさげに、拗ねたように顔を背けた俺に、網野は、記憶を辿るように宙へと視線を投げた。
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