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第74話 柊の浴衣 <Side 真実

「たく…、お前が遅れて来たから、話がややこしくなったんだぞ」  小佐田さんと良い雰囲気を醸していてくれれば、鞍崎さんも誤解しないで済んだのに…と、ぶつくさと文句を吐いた育久が、八つ当たり紛れにオレの横っ腹を小突いた。  柊と鞍崎さんをベンチに残し、オレと育久で少し離れた自販機まで歩く。 「“おくれる”ってメッセージは見たから少し余裕もって来たのによぉ。なんで来てねぇんだよ……」  不貞腐れたように声を放つ育久に、にたりとした声を返す。 「盛り上がっちゃって?」  ニヤニヤしてしまうオレに、育久の冷めた視線が刺さった。 「そんなコト、聞いてねぇよ。何となく想像ついてんだよ。てか、想像させんな」  ぺちりと、締まりのないオレの頭を軽くて叩いた育久が、言葉を繋ぐ。 「それなら、2人ともいないはずだろ。小佐田さんだけ居たから、ややこしくなったんだよ。ま、誤解、解けたから、いいっちゃいいんだけど」  自販機に辿り着いた育久が財布から小銭を取り出し、投下する。  お茶とコーヒーを買った育久が、それを取り出し立ち上がる。 「あぁ、そうだ。これ、やる」  育久を殴った紙袋を差し出すオレに、不思議顔が返ってきた。 「浴衣。オレんとこの。去年のデザインだけどな」  オレは、育久と場所を入れ替わり、ミネラルウォーターを2本、購入した。  朝顔か鯉、どちらかのデザインを育久の恋人に贈ろうと考えていた。  でも、ここに来る前に朝顔バージョンの浴衣を着せた柊が余りにもエロ綺麗で、襲ってしまった。  浴衣はもちろん、着て来られる状態ではなくなった。  今、柊は鯉が跳ねる浴衣を着ている。  こっちはこっちで、めっちゃエロ綺麗で、堪らん…、じゃなくて。  結局、今年のデザインの2枚は、両方とも柊の浴衣になってしまった。  去年のデザインの浴衣が何着か社車に積みっぱなしだったコトを思い出し、オレはプレゼント用の浴衣を取りに行ってから来る羽目になったのだ。

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