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自己紹介ができました

  雑貨屋さんの全てのゴミ箱をあさってない事を確認した木下さんは、漸く納得したのか、ソレ以上、ゴミ箱をあさらなくなった。 かと思いきや、「あの、すみません。昨日、大事なモノをこのお店のゴミ箱に捨ててしまいまして、ココの集塵庫にあるゴミを全部見せて貰いたいのですが…」そう店員にお願いをし、ココの集塵庫へと案内される木下さんはまだ諦めてはいなかった。 「ちょ、木下さん。ソコまでして、探さなくとも良いじゃ…」 ないですか?と言う言葉と共に、「あっ、昨日のお兄さん?」強面のお兄さんを発見し、オレが振り返ると物凄い勢いで戻って来る木下さんの姿を見てしまった。 瞬く暇もなく、走り抜けて行く木下さんは物凄い形相でオレは木下さんを引き止める手を思わず、引っ込めてしまった。 「ちょっと、ソコの貴方、少しお話があります。動かないで、ソコで待ってて下さい」 大声を張り上げ、強面のお兄さんに突進して行く。 「……?」 強面のお兄さんは、え?俺と言う顔で木下さんを見るがその後ろにいたオレの顔を見ると、「嗚呼、もしかして、ソコのお嬢ちゃんのお母様ですか?」何て、とんでもない台詞を木下さんに向かって投げ掛けるモノだから、「誰がお母様ですって?」と強面のお兄さんの胸ぐらを引っ掴むと物凄い形相の顔をコレでもかと、強面のお兄さんに近付けていた。 「ちょ、き、木下さん」 喧嘩腰の上、一番、怒らせてはいけない人を今まさに怒らせようとしていたから、「駄目ですよ。相手は強面のお兄さんですよ。何しでかすか、解りませんって」木下さんの羽織っている白衣の裾を引っ張ってオレが木下さんを止めようとすると、「嗚呼、お母様じゃなくって、お姉様でしたか。コレは、とんだ御無礼を」と、 その強面のお兄さんは木下さんに掴まれていた両手の上から自分の両手を被せ、するりと紐をほどく感じで解き放ち、「美しいお姉様に敬意を」と、甘く蕩ける様な眼差しで木下さんの両手の親指にチュと軽い口付けをした。 言うまでもないが、オレは廻れ右をして店員さんを呼びに行った。 強面のお兄さんは勿論、下から繰り上げられる木下さんの拳をメイ一杯下顎で受け止めていた。 恐るべし、木下さんと言いたいが、暴力沙汰は校則違反です。 幾ら、養護教諭と言えど、学校の校則は必須です。 「すみません。救急車を呼んで貰えますか?怪我人です。怪我人が出ました」 オレが必死に店員さんに説明をしていたら、「嗚呼、お嬢ちゃん。救急車は必要ないからそう慌てない♪慌てない♪」背後からそう言う声がし、振り返ったら、さっき木下さんに諸に顎を砕かれていた強面のお兄さんが立っていた。 「え?でも、顎…」 オレは泣きそうな顔でその強面のお兄さんの顎を撫で撫でしていたら、「?????…砕けてない?」砕けていない処か痣一つ付いていなかった。 「アレ?木下さんにグーでグーで…」 殴られたのに怪我一つしてないよと木下さんの方を見ると、「当然です。養護教諭と言えど校則は必須です。暴力沙汰は御法度です」そう言われた。 否、アレは明らかに暴力ではと思ったが、あんなに諸に喰らったのに怪我一つない強面のお兄さんの方が不思議だった。 木下さんは、「貴方、セクハラで訴えますよ。養護教諭を舐めないで下さい」強面のお兄さんに自分は正当防衛だと言い張り、自分は養護教諭だと連呼する。 嗚呼、お母様呼ばわりやお姉様呼ばわりは流石に気に入らなかったのかと思いながら、「木下さん、説得力ないですよ。強面のお兄さんにはそう言うのは」オレは木下さんにそう言い、兎に角、謝って逃げましょうと木下さんの腕を取るが、「お嬢ちゃん、さっきから強面のお兄さんって俺の事?」そう強面のお兄さんがそのオレの腕を掴む。木下さんから引き剥がす様に。 オレは自然とその強面のお兄さんの方へと引き寄せられ、また昨日と同じ場所にかぷと噛まれました。 「はう!?な、何するんですか?」 オレはまた同じ様に噛まれた事よりも噛まれて痛かった事を怒る。 「はっはは、やっぱり、お嬢ちゃん面白いね♪」 強面のお兄さんはケタケタと嗤う。 「ハア?何が可笑しいんですか?痛いのに痛いと言わない方が変じゃないですか?」 オレはそう怒り、木下さんに同意を求めるが、「神谷くん、ソレよりも大事な事があると思いますが?」そう言われ、嗚呼とポンと合点打ちをする。 解りましたと垂れた目尻を引き上げ、「強面のお兄さん、木下さんの親指にちゅーは駄目ですよ」そうオレは強面のお兄さんに木下さんの気持ちになって駄目出しをしてやった。 なのに、「神谷くん、違うでしょう?」木下さんは呆れてそう言い、強面のお兄さんは、「アレ?お嬢ちゃんってもしかして男の子?」今更の様な意外な発見をしていた。 「え?木下さん、ソレはオレが噛まれる事よりも大事な問題だと思いますが?」 木下さん、女性ですし。 そう言っている間に、「ええ、そうですが?もしかして、貴方、何も確認を取らずに?」木下さんはそう応えてて、「普通、噛まれた事を怒るんじゃ?」強面のお兄さんがそうオレに突っ込んでいた。 ソレゾレ、思い思いの発言をする為、 「え?オレって、女の子と間違えられていたんですか?」 「そう何です。神谷くん、噛まれた事に無頓着で貴方から貰った名刺を捨てるくらいに」 「ハイ、お嬢ちゃんと言ってもお嬢ちゃん、否定されなかったので」 会話が全く噛み合ってない儘、 「そう言えば、否定していませんでしたね。噛まれたのが痛くって」 「神谷くんが否定されなかったからでしょう?どうして、そう無頓着何ですか?」 「え?俺の名刺を捨てたって?」 会話が更に続き、 「ええ、申し訳ありません。お恥ずかしいお話ですが、事実です」 「神谷くん、噛んじゃってゴメンね。コレからは噛むなよって言ってから噛むね」 「ゴメンなさい。木下さん、コレからはもう少し気を付けます」 そうして、 「あ、自己紹介が遅くなりました。俺は、一堂阿也と言います。この雑貨店の近くにエクレアを主に扱ったカフェを出しています。コレでも一応、オーナーです」 「コレはコレはご丁寧に有難う御座います。私、私立綾波高校の養護教諭をやっています、木下沙羅と言います。此方こそ、初対面にも関わらず、ご挨拶が遅れて申し訳御座いません」 「えっと、オレは私立綾波高校一年の神谷時次と言います。男です。宜しくお願いします」 奇跡的に自己紹介まで漕ぎ着け、一件落着していた。 皆聞いていない様で、ちゃんと聞いていたみたいで良かった等とうんうんと頷いていたら、この後、木下さんにこってりと絞られたのは内緒です。 ソレは兎も角、漸く、六話目で自己紹介が出来ました。  

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