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お願いしました
オレの項を噛んだ強面のお兄さん(一堂さん)と連絡が取れる様に、メールと携帯番号を其々交換した次の日。早速、その一堂さんからメールが届いていた。
お店に出すエクレアの試食をして欲しいとの事で一堂さんのお店に来て欲しい、と。
だが、オレはそう言うお店に馴染みがない上一堂さんに不馴れ(人見知りの様)でどうしようか迷っていたら、不意に木下さんの顔を思い出した。
確か、一堂さんと連絡先を交換したのはオレだけではなかった、と。
木下さんの所にも、同じ内容のメールが届いているかもしれないとオレは教室に行く前に養護室へ向かった。扉を開き、そっと覗き込むと昨日と同じ様に机に向かって木下さんは椅子に座っていた。
健康診断の準備をしていたらしく、机の上は学年事のクラス名簿と事前に提出した問診票が並べられている。扉が開いた事で木下さんがオレの方に振り返るまでそう時間は掛からなかった。
「お早う御座います、神谷くん」
「…あ、お早う御座います。…木下さん」
オレはおずおずと養護室の中に入るのは、木下さんが怖いからだ。
昨日、散々木下さんに説教をされ、絞られたから、身体が恐怖に溢れ返っているのだ。
「えっと、あの……昨日は、…そのお世話を掛けました。ゴメンなさい…」
「神谷くん、もう怒ってはいませんよ。私も感情的に成り過ぎてしまって、ついキツい口調で叱ってしまいましたから」
木下さんはそう言い、決して、叱った事は悪いとは言わなかった。
ソレもそうだ。
悪いのは、オレの方だったし。
「…えっと、ですね。………実は…」
歯切れ悪くそう言うと、木下さんは深く息を吐き出して立ち上がった。そして、オレとの距離を縮めて来る。
「昨日の他に何かやっらかしてしまった事でもあるのですか?」
オレの余りの歯切れの悪さに木下さんがそう解釈して来るのは当然で、オレは俯いてしまう。
「ソレは、私に言い難い事ですか?」
「…その、…違………うって言うのですが、あの、一堂さんからお誘いメールが来ませんでしたか!!」
半分、怒った口調になってしまった事に気が付いてオレはハッと顔を上げた。
「そうじゃなくって…、その…、木下さんにも一堂さんからお誘いメールが来ていたら、…う、嬉しいかなって…」
慌ててそう口にしたら、木下さんが何を言っているのですか?半分怒った顔で半分呆れた顔でオレを見た。
「来ていませんよ。その様なメールは」
そう言う木下さんは心底ホッと胸を撫で下ろしていた。
でも、フと木下さんの言葉に疑問が生じる。
そう思った瞬間、オレも馬鹿で直ぐにその事を口に出していた。
「その様なメールはって事は他の内容のメールは届いているって事ですか?」
「ええ、神谷くんを一堂さんのお店に誘っても良いですか?とか、神谷くんの嫌がる事はしませんからお願いしますとか、色々です」
木下さんはそう言って、一堂さんとやり取りをした内容のメールをオレに見せて来た。
何故、木下さんがそうして来たのか解らないけど、
「一堂さんは私から見ても信頼出来る方ですよ。手順は逆でしたが」
そう言い、何故か、育ての親の真弥さんよりも親らしい事をしてくれる木下さんに、オレはドキドキする。
「ソレって…」
「神谷くんが許す限り一堂さんと仲良くしても問題はないと言う事です。逆に言えば、番の一堂さんだけ注意をすれば、安心だって言う事ですから」
木下さんの最後の言葉は兎も角、オレはハッとした顔で木下さんの顔を見た。
「えっと、オレが一堂さんを疎遠にしたら木下さんに怒られるって事ですか?」
「そうですね。で、どうするのですか?一堂さんのお誘いは」
木下さんの顔が怖い。
だけど、一人で一堂さんのお店に行く勇気もない。
「木下さんは、オレの味方ですか?ソレ共、一堂さんの味方何ですか?」
「何、言っているのですか?両方です」
「なら、一堂さんのお店に行くの一緒に付いて来てくれませんか?」
「神谷くん、貴方は…」
木下さんはオレの顔を見て、そう口にした。
「オレ、一堂さんのエクレア食べたいのですが、一堂さんのお店は苦手だし、一堂さんの事も噛み付くから苦手何です」
どうしたら良いでしょうか?と泣き付いたら、
「やっぱりそうですよね。解ってはいましたが」
木下さんはもう本当に残念そうな信じられないと言う目でオレを見ていた。
ソレは兎も角、オレはこんな風にして木下さんに同行して貰える様に頑張って、お願いしました。
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