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かじり付いていた
木下さんに「では学校後に」と言って、オレは養護室を後にした。
とは言え、昨日は学校に来たモノの教室に顔を出さない儘帰宅したから、教室に入り辛い。
そう思っていると担任と昇降口でばったり、会ってしまう。
「あ、神谷、お早う。昨日は大変だったな」
軽やかにそう言って来たから、オレは軽く会釈し、
「お早う御座います。心配をお掛けしました」
そう返す。
担任は木下さんから事情を聞いているらしくオレの頭を撫でながら、
「何事もなくって、安心した。昨日配布したプリント等があるから、帰りに職員室に寄ってくれ」
そう言い、オレの背中を押す。席替えの一件も知っているから、オレと一緒に教室に入ってくれるらしい。
「ハイ、解りました」
小さくそう答え、オレは階段を昇り出した。
すると、
「そう気負う必要はないぞ。お兄さんだと思って頼りにしろ」
オレの後ろを歩いていたハズの担任がオレを追い越して行きながら、出席名簿でポンポンと背中を叩く。
背筋を伸ばして教室に入れと言う感じで、廊下も先に歩き、注目の視線をオレから前に歩く担任へと自然と向け直してくれるのが、嬉しかった。教室に入る頃には俯いていた顔が上がってて、流石、先生だなとオレは思った。
先に教室に入り、クラスの生徒と挨拶をして然り気無い会話を展開させてから、オレの方へ視線を向けて、
「神谷、お早う。早く席に着けよ」
そう言うと、担任はオレを手招きして教室の中に引き込む。
さっき会って挨拶を交わしたと言うのに、今しがた会ったと言う顔はちょっと頼りになるお兄さんに見えた。
オレは、「お早う御座います」そう言い、教室の中にいたクラスの連中にも「お早う御座います」と挨拶をする。
おかなびっくりで教室に一歩踏み込むと、「Ωちゃん、お早う~。昨日、教室に来なかったから、もう俺心配で~」俺の所為かと本当、心配したんだよと緑川が泣き付いて来た。
確か、「明日学校で」と言いながら無理矢理緑川の腕の中から抜け出して、緑川と別れたなと苦笑いをする。
「ちょっと、野暮用が出来まして教室に来られなかったです。ゴメンなさい」
そう言うと、
「良いよ。今日は来てくれたから」
俺、Ωちゃんに会えて嬉しいと相変わらず、緑川はオレにべとべとと抱き付いて来る。
そして、相変わらずソレを五十嵐がムッとした顔で緑川を引き剥がす。
「ほら、緑川くん、神谷くんから離れて。出席を取るって言ってるよ」
担任の方に視線を向けさせ、担任が教卓に立っている事を確認させる。
「うん、じゃ、放課に話そうね」
Ωちゃんと緑川は名残り惜しそうにオレから離れて席に着いた。
「神谷くん、お早う」
五十嵐はそう笑顔で言って、オレの手を掴んでオレの席までオレを引く。
「昨日は学校案内と親睦合宿の案内のプリントが配布されたんだ。プリントは早川先生が持っているから後から貰えるけど、学校案内だけはしてくれそうにないから、俺が責任持って教えて上げるね」
「有難う御座います」
「良いよ。ソレも、俺の仕事だから」
と、五十嵐は自分が学級委員になった事をオレに教えてくれた。
「じゃ、放課にね」
そう言うと、オレを席に座らせて五十嵐も自分の席に着いた。
何だかんだと言って、気を使ってくれるクラスの皆に感謝するオレだったけど、やっぱり、意中の溝を一気に縮める事は出来ずオレは自分の席にかじり付いていた。
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