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第一章・5
キッチンに居るはずの父の姿は、無かった。
秀也はあたりを見回しながら、いつもの席に着き茉理に訊いた。
「父さんは?」
「父さんたちは、もうとっくに出かけたよ。新婚旅行に」
「な……ッ!?」
昨夜から、自分ひとりが取り残され、置いて行かれている気分だ。
そんな秀也に、茉理はぺこりとお辞儀をした。
「今日からよろしくね」
「え、えぇっ? うん……、よろしく」
秀也はとりあえず、目の前に広がった素敵な朝食に挨拶した。
トーストに、スクランブルエッグ。フルーツサラダに、コーンスープ、ヨーグルト。
100点満点の献立に、気を良くした。
いや、それどころか感激していた。
独りが多い朝の食卓に、自分でこんなに凝った料理を並べることは、まず無い。
朝食は抜くか、シリアルで済ませる秀也は、家庭の味といったものを久々に味わった。
「美味い。ありがとう、茉理くん」
「どういたしまして」
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