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第二章・10

「ふぅ、はぁ、はぁ、ひぅ……」 「大丈夫か?」  身体を震わせ、甘美な余韻に浸る茉理を、秀也は覗き込んだ。 「あぁ……、赤ちゃん、できちゃう……」 「できるわけ、ないだろ!」  それくらい、凄かったってこと、と茉理はかすれた声でつぶやいた。 「抱いてくれて、ありがと」 「こっちこそ、ごめん」 「秀也お兄ちゃん、僕のこと思い出した?」 「え? 思い出す?」  思い出すも何も、茉理とは今日が初顔合わせのはずだ。  過去に会った記憶なんて、ない。  きょとん、とした秀也の顔に、茉理は薄く微笑んだ。 「忘れてるよね。一度しか、会ってないんだもん」 「いや、待てよ。言ってみろ。思い出すかもしれないから」 「ふふ。相変わらず、優しいね」  今夜はとっても疲れちゃったから、また今度話すよ。  そう言って、茉理は瞼を閉じた。  すぐに、すうすうと安らかな寝息が聞こえてくる。 「……俺のベッドで、寝るな」  そうは言っても、たたき起こしたりしない優しさを持つ秀也だ。  茉理の身体を拭いてやり、毛布を掛けてあげた。 「秀也お兄ちゃん、大好き……」  寝言でも、茉理はそんなことを言っていた。

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