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第三章・2

「僕、小さい頃にお父さんと一緒に、兄さんのお父さんのサイン会に行ったことあるんだ」  秀也の父は自称、ではあるが、まがりなりにもスポンサーのつく冒険家である。  世間での知名度は比較的高く、本を書くとサイン会が開かれることがあった。  そこに、幼い茉理が父親の宮園 敬(みやぞの けい)と共に参加したのだ。  秀也の父・敏郎は、たまには自分のカッコいい姿を息子に見せたいとサイン会に連れて来ていたのだが、まだ10歳の子どもには退屈でしかなかった。  それに、いつも自分を祖父母に預けてどこかへ行ってしまう父を、秀也はそれほどカッコいいとも思っていなかった。  人ごみを抜けて広い書店内をうろついていたその時、秀也は茉理と会ったのだ。  ふとした隙に、敬の手を離れ店内で迷子になっていた茉理は、怪しい大人に話しかけられていた。 「ね、おじさんと一緒においで。ゲームセンターに連れて行ってやるよ?」 「ゲームセンター?」 「いくらでも、好きなゲームをさせてあげるから、おいで」  甘い言葉に惑わされ、男の手を取ろうとしたその時、茉理はもう片方の手を強く引かれた。 「知らない人に、ついて行っちゃダメだ」  秀也が、茉理の手を握っていた。

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