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第三章・5
「なぁ、金貸してくれよ。今夜、合コンなんだ」
「相変わらずですね、先輩」
「頼むよ。こうしてわざわざ来てやったんだぜ?」
秀也は黙って財布を出すと、その中から5千円札を抜いて袴田に渡した。
「いつも言いますけど、もうこれっきりにしてくださいね」
「サンキュ!」
札をポケットに捻じ込むと、袴田は茉理の方を向いて来た。
「ところで、この子は?」
「弟です。父が、再婚しましたから」
「あ、そ。よろしくね」
そう言うと、袴田はすばやく茉理の手を握った。
一瞬だけ目が合い、茉理は嫌な気分に襲われた。
安っぽい香りのコロン、汗で湿った手のひら、そして。
(何か、いやらしい目つきしてるな。この人)
小さい頃にゲーセンに連れて行くと言って、自分を誘拐しようとした男の目に似ていた。
袴田はそれだけで、振り向きもせずに行ってしまったが、秀也と茉理の間には淀んだ空気が残された。
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