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第三章・6
「兄さん、あの人だれ?」
「卒業生だよ。部活の先輩だったんだ」
「何で言いなりに、お金なんか渡してるの?」
「仕方ないだろ」
俺が断れば、他の友達が標的になるんだ。
そう言って、秀也は歩き始めた。
「茉理は、袴田さんに関わるなよ。いいな?」
「うん……」
兄さん、ホントは嫌なのに先輩に従ってるんだ。
それが痛いほど解った茉理には、秀也の優しさがかえってもどかしかった。
(何でも自分だけで背負いこんじゃうのは、よくないと思うけどな)
「どうしたんだ? 早く行くぞ」
「あ、うん」
僕に、何かできることがあればいいけど。
そう思った瞬間から、茉理の行く手にはぽっかりと地獄の穴が開いてしまった。
袴田という男に、関わるな。
秀也の言いつけを守らなかった報いが、その身に降りかかることとなった。
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