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第五章 怒りの果てに

 帰宅し、秀也は室内に異常を感じた。  キッチンにもリビングにも、明かりが点いていない。  薄暗がりの中電灯をともし、二階へ昇った。 「茉理? 帰ってるのか?」  茉理の部屋のドアの向こうにも、明かりの気配はない。  ただ、かすかに鼻をすする音が聞こえた。 (何か、あったのか?) 「茉理、入るぞ」  秀也が部屋に入ると、制服のままの茉理がベッドに伏せている。 「どうしたんだ? 具合でも、悪いのか?」 「兄さん……」  ごめんなさい、兄さん。  僕、兄さんを裏切った。  袴田さんに抱かれて、気持ち悦くなっちゃった……。  そう、正直に言えれば心は軽くなるだろうか。 (ダメ。とても言えない!) 「ん……。ちょっと気分が悪いんだ」  こみあげてくる涙をこらえながら、茉理は声を絞り出した。

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