59 / 96

第七章・9

「まずは、その広報の方に会わせてください。その人が気に入らなかったら、俺の出演は無いんでしょう?」 「兄さん!」 「会ってくれるか。ありがとう」  秀也の胸は、どきどきと高鳴っていた。  今まで見たことも無い世界へ、足を踏み入れるのだ。  緊張と不安が、彼を襲っていた。 「兄さん、大丈夫? ちゃんと、聞いてる?」 「あ? あぁ」  斎藤からスケジュールを聞き、メモする茉理がやけに頼もしく見える。 (茉理のCMデビューのためだ)  そう自分に言い聞かせ、覚悟を決めた。 「じゃ、明後日また会おう。午前10時に」 「はい! よろしくお願いします!」  元気な挨拶の茉理は、いつもと違う芸能人の顔をしていた。

ともだちにシェアしよう!