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第八章・2

 現れたのは、斎藤と同じくらいの年齢の男と、少し若い20代の男だった。  G&W飲料の広報担当者と、広告代理店のスタッフだ。  名刺を渡され、茉理はにこにこしている。  秀也は、もう引き返せないところまで来たのだと、実感していた。 「お兄さん、思ってた通り。いや、思った以上にイイねぇ!」 「茉理くんと正反対、という点がバッチリですね」  斎藤が茉理と秀也のPRを始め、二人はそれに聞き入っている。  秀也が手持無沙汰にしていると、テーブルの下で茉理が手を握って来た。 (茉理?)  彼の手は汗で湿り、少し震えているようだ。 (そうか。このCMに賭けてるんだな、茉理は)  どうか、採用になりますように。  そんな気持ちでいっぱいに違いない。  秀也は、茉理の手を強く握り返した。 (大丈夫。絶対、うまくいくから) (秀也お兄ちゃん)  祈る気持ちの二人に、大人たちは笑顔を向けた。

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