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第八章・6
夜、秀也は夕食を終え茉理の淹れてくれたお茶を飲んでいた。
帰宅し、すぐにシャワーを使って身を清めた。
それでも、体中に沁みついた汚れのような牟田の感触は、なかなか消えてくれない。
「なぁ、茉理」
「なに?」
「茉理は、その。大丈夫だったか? 斎藤さんやG&Wの担当さんに、関係を求められたりしてないよな?」
「しないよ、そんなの~。兄さん、ドラマやマンガの見過ぎだよ」
「そうか。なら、いいんだ」
心配してくれたんだな、と茉理は素直に嬉しくなった。
「優しいね、兄さん」
「そうでもない」
俺は、茉理以外の人を抱いたんだ。
いくら仕方が無かったとはいえ、牟田さんと寝たんだ。
「兄さん、どうしたの? 何だか元気ない」
「いや、これが普通」
そうかな~、と顔を近づける茉理は、いい匂いがした。
牟田の整髪料とは違う、ナチュラルな香り。
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