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第十一章・7
でもね、と茉理は手をもじもじさせた。
「実は僕も、いいそびれてたことがあるんだ」
「何だよ」
「ドラマの仕事、貰っちゃった!」
「ホントか!?」
やったやった、と二人は両手を握ってぶんぶん振った。
「ついに、俳優デビューか。夢がかなったんだな、おめでとう!」
「ありがとう!」
どんな役だ? と秀也が訊くと、茉理は複雑な表情だ。
「主人公の、弟役」
「役でも、弟か!」
大丈夫、すぐに主役になれるよ、と優しい秀也に、茉理は不満そうに言った。
「兄である主役の恋を、陰ながら応援する弟、なんだけど。何だかヤだな」
「何で嫌なんだよ」
「だって。僕、兄さん以外の人の弟に、なりたくないんだもん」
「可愛いこと言ってくれちゃって、このぉ!」
ばふん、と秀也は茉理をベッドに押し倒した。
「ひゃぁ!」
「な、さっきの続き、やろうぜ」
「え……、ダメだよ。お父さんに聞こえちゃう」
「一階だよ? 聞こえるはず、ないさ」
ささやかな抵抗は最初だけで、茉理はすぐに秀也の身体に腕を絡めた。
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