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終わり
ブーブーブー。
尻ポケットに収まった携帯電話が三回震えて、佐伯を物思いから覚ませた。届いたメールを開くと、仕事はどのくらいで終わるか、夕飯は何を食べたいかなどと尋ねる言葉が連ねてある。いつも通りそれに返信しようとして、思い直した。
電話帳から『橋本一生』の名前を選んで電話をかける。短い呼び出し音の後、聞き慣れたハスキーな声が『もしもし、佐伯さん?』と言った。
『仕事終わったんすか?』
「うん」
『お疲れ様です。今日、早いですね?』
そう言う橋本の声はちょっと弾んでいるが、佐伯の口は重かった。
「今日はちょっと用事あったから早く上がったんだ」
『用事?……あ、飲みに行くとか?』
「いや……ちょっと、君に」
『オレに?』
「……話が、あって」
数秒の沈黙。歩いている途中なのだろうか、電話口から聞こえるちょっとした息遣いにひたすらに緊張した。
『……わかりました。夕飯、いります?』
「いや、とりあえずいいよ。部屋で待ってて、すぐ帰るから」
『了解』
その言葉と共に電話は切られた。佐伯は思わず深く息を吐く。話をすると言ったのだから、もう後戻りはできない。終わりにするのだ、彼との曖昧な関係を。
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