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第2話

放課後中庭に来いといわれたけど 今日は転校初日で勉強道具も持ってないから また明日、と先に帰ろうとした すると 絡まれたのだ 見知らない男に まぁほとんどが見知らないけど 「そんなナリでうちの学校制覇なんてできると思うなよ」 と、今日で見慣れたポーズ パキパキと指を鳴らしながら絡んできた男 なんでこの学校を制覇しに来たってのが広まってるかわからないけど こうなったら切り抜けるしかない、と とりあえずメンチを切ってみた ほう、やる気か、とメンチを切り返されて 何かいわなきゃ、と 『ぼく、帰る予定だったんだけど』 と、通してもらえるか わずかな期待を残して伝える 「ふざけた事言ってんじゃねえ」 と、殴りかかってこられて ひ、と喉がまた少し引き攣る さすがに顔面を殴られるのはこわい、と 頭を手でかばって少し屈むと 『あ、』 見えてしまった 「何よそ見してんだ!」 と、すかさず2発目が降りかかるが 気づいてしまったらそこが気になってしまって 先に教えよう、と指を指す 「な、なんだよ」 と、こちらの行動を不思議に思ったのか 止まる拳 『社会の窓、開いてるよ』 と、その窓から うさぎさんが覗いていた 「は?え!?」 と、おどろき下を向いて確認する男 そして遅れて顔が赤くなる 「 い、いや!これは!いつから?え!?」 と、激しく動揺して 急いで閉めようとするが 「そ、そんな事より今は勝負だ!」 と、社会の窓全開のまま殴りかかってきたけど 閉めればいいのに、先に 動揺しているのか 拳が定まって無かったから 案外すんなり避けられた ぼく、意外にケンカできたのかも やった事ないけどやるしかないか、と拳を振りかざした時だ こちらの拳を避けようとしてかがんだヤンキーさん そして、 プチン、と下の方で何かが音を鳴らす 『 ん? 』 なんの音だ、と思ったら しかし、 ずる、と下がった彼のズボンを見てすぐにわかった 制服のズボンのボタンが かがんだ拍子に飛んでしまったのだ そしてチャックが元々全開だった彼のズボンは ずるん、と落ちて かわいいうさぎさんがこんにちはだ 『あ、だ、大丈夫?』 「く、くそー!みるな!」 と、慌てながらズボンを上げるけど 慌てすぎてどてん、と尻餅までつく始末 これはもう休戦だ 『大丈夫だから、落ち着いて。あ、裁縫セット持ってるからボタンつけてあげようか?』 と、彼のズボンに手をかけると ますます顔を赤くする彼 かわいそうに 「だ、誰にも言うんじゃねえぞ」 『言わない言わない。ほら、貸して』 と、彼のズボンを奪うと 仕方ないからその場に座って裁縫セットを取り出す そんな器用じゃないけどボタン付けくらいならできる もしもの時のために持っていてよかった ちくちく、と縫っている途中も 彼の顔は赤くて 下半身を隠すようにぼくの学ランの上を貸してあげると 小さくて着れるか、と怒られた 貸してやってんのに つか着なくていいのに 『ほら、できた。とりにおいで』 と、距離をとって座っている彼に差し出すと 大きめの彼はこちらを見下ろすようにすぐ横に立った 「余計なお世話だ」 『いいじゃん、たまには』 「 なんだよ、それ 」 『余計なお世話でもありがとうでしょ?』 「勝手にやったくせによ」 はい、と渡すと後ろを向いてズボンを履いた彼 ようやく勝負再開か、と思ったけど 何やらうつむいて ボタンを見つめてる彼 『どうした?付け方おかしかった?』 と、彼の後ろから覗き込むと 「ち、」 『ち?』 「ち、ちけーんだよ!女みたいな匂いさせやがって!」 と、一気に飛びのいた彼 『 は? 』 なにそれ、女みたいな匂いって 彼の顔を見るとまだ真っ赤で なんの事だよ、とじっと目を見てやった するとますます顔を赤くして 「おぼえてろよー!」 と、三下みたいなセリフを残して走り去ってしまった なんだったんだ、まったく 女みたいな匂いって失礼じゃね。 とりあえず 勝負は再開しないらしい ◆◇ さて、どうやったら この学校を制覇できるのか やっぱり強くなきゃ無理なのかな ぼくが学年1位とか取ってからじゃないと… みんなに言う事聞かせるって難しいかな とりあえずあのいい人、日向とは戦わなきゃいけないのかな あの人強そうだけどな。どうやったら勝てるのかな そんな事を考えながら今日も重い足を引きずって学校に向かう しかし 学校に入った瞬間から ひそひそと聞こえてくる声 「転校生が1年トップ、シメたらしいぜ」 「転校生ってあの弱っちそうなやつだろ?」 「でも、朱里くんの前例があるしよ」 と、よくわからない声が聞こえてくる そしてなぜか道が開けられる 教室についても誰も近寄ってこない あれ、これハブられてんじゃないの? シメるとかそういう事をしたいわけじゃないんだけどな 「よー!雪ー!お前昨日俺との約束来ないで1年〆てたのかよ!」 『いや、べつに』 「いや、学校中の噂だぜ。1年トップの笹塚のやつ、お前に負けて辱めにあったから今日休んでるって」 いや、確かに辱めにはあってるけど それは彼のミスというか… 「やる気なんだな、本気でこの学校シメるつもりだよな」 『うん、それは本気だけど』 「じゃあ今日こそ俺との勝負だな!」 『今日はだめ、引越しの片付けとかあるし』 「引越し?お前引っ越したから転校したのか?」 『転校する為に引っ越したの』 「あー、お前前の学校でなんか問題起こしたんだろ」 『なんで?』 「問題起こした生徒を受け入れるなんてこの学校にはよくある事だからな」 『ふーん、じゃあそれでいいや』 「それでいいやってよ。なんだそれ。変なやつ」 『そんな事無いのに。日向だって変なやつじゃん』 「はぁ?俺のどこが変なんだよ!」 『だって、ヤンキーくせにいいやつじゃん』 「は、はぁ!?な、なんだよ!いきなり!」 『声大きいね、日向は』 「あたりまえだろ?男なんだから」 そういうものなのかな 「つーか、お前」 『ん?』 「簡単に学校制覇とか言うけど、倒す相手は俺以外にもいっぱいいるぜ」 『いっぱい?』 「例えば隣のクラスのキサキだろ?後は3年のヒラコ!」 キサキにヒラコ この学校にも勉強を頑張っている人が 他にもいるということだろうか それならぼくは逆に安心というか切磋琢磨して行きたいけど 『とりあえず会ってみたい、案内して。授業の後』 「おう。お前って変なとこ真面目だよな」 そりゃそうだ だってこの学校にきた目的はあれだもん、 この学校の更生だもん 言えないけど 授業のあと、昼休みになったから 購買にごはんを買いに行ったら 戦争だった 『日向ーむり、あの中入れない』 でも、お昼はたべたい 「はぁ!?昼飯の為だろ!突っ込め!」 と背中を思いっきり押された 『ひぎゃぁ!』 と、間抜けな声まで出てしまって 踏みつけられそうになりながらも どうにか近くの人の腕に捕まって立ち上がった 「おい、引っ張るな」 『ごめんな、わ、ぁっ』 謝って離れようとするけど どんどん後ろから押されて さっきの人にくっついてしまった 近いな、 今までそこそこ育ちのいい学校に行っていたから こんなお昼ご飯の購買戦争なんてドラマの中だけの話だと思っていた 「おい、くっつくなよ」 『ごめんなさ、ぁ、もぉむりいー、ひなたぁー!』 たすけて、と、お昼ご飯を諦めようとした 「雪ー?よんだか?」 「日向?お前日向の知り合いか?」 と、目の前の人に腕を引かれた 『え?』 「こっちだ、お前、欲しいパンは?」 『めろんぱん』 と、腕を引かれて ぐいぐい先頭まで連れてかれて 「メロンパンと焼きそばパン、あとコロッケパンと牛乳!」 と、大きな声で注文した彼 あれ、身長は同じくらい なのに力強い 「ほら、100円だぞ」 『う、うん』 と、言われるままに100円を渡して ぐいぐいと腕を引かれて購買戦争から抜け出した 「雪、買えたかー?お、キサキも一緒だったのか」 『きさき?』 「ほら、お前の分だ」 と、手にメロンパンを置かれた あれ、キサキって さっき言ってた 「こいつお前のか。ちゃんと面倒みろ」 と、ぐい、と腕を引かれて日向の前に出された 「えー?だって買えるだろ、購買くらい」 『おそろしかった…』 「そんなんでうちの学校制覇とかできるのか?」 『うわ、意地悪言った』 「で?こいつはなんなんだ?」 キサキ、 可愛い顔してる まつ毛が長い 身長は高くないけど 筋肉はある 「転校生だよ。昨日からウチに来た。ウチの学校を制覇するんだってよー」 「ということはお前が1年シメたって噂の転校生か、なるほど。確かに騒がれるのもわかるな」 『そんなに噂になってるの?』 「あぁ。女顔で細身のやつが1年シメたって噂だ。朱里くんの再来だとかうるさいったらないからな 」 『なに、朱里くんの再来って』 朱里くん、 昨日からよく聞く名前だ けど、その名前が出た途端 日向の眉間にしわが寄った 「早く食おうぜ、腹減った」 と、先に歩いてどこかに向かう日向 『日向どこいくの?』 「屋上だ。ヒラコにも会いたいんだろ?」 『会う。会いたい』 と日向について屋上に向かうと キサキもついてきている どうやら仲良しらしい 『きさきは?名前なんていうの?』 「希咲潤だ」 『可愛い名前だね』 「バカにするな。お前は?なんなんだ一体」 『転校生。弱そうだから日向に守ってもらってる』 「転校初日に1年シメたやつがよく言う」 『いや、あれはまぁ色々あって。あと日向いいやつだし』 「そう面と向かっていいやつって言われると照れるっつぅかなー、」 『きさきもいいやつだね。気に入った』 「勝手に気にいるな」 『だって、パン買ってくれたし』 「….お前は弱そうだ」 なんだよ、その言い方 まぁ、この学校の人達からしたら貧弱の極みみたいな感じだけど… その分学力でカバーするからいいのに

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