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第5話

夕ご飯の材料を買って帰ろう、と スーパーに寄ってみた けど、ここの辺りはまだよく知らないから ちょっと家から離れたスーパーまで来てしまった 今日の夕ご飯はハンバーグかな、と ハンバーグの材料をカゴに入れていく 後は玉ねぎ、と玉ねぎに手を伸ばすと 漫画みたいに知らない人と手が重なって すみません、と顔を上げると うちの学校の制服を着ている人がいた 『すみません』 と、謝ると なぜか不機嫌な顔になったその人 あんまり見たことないから先輩かな 身長高いし 『…なんですか』 「別に」 『別にじゃないです。嫌な顔したじゃないですか』 「…お前は本当に男なのか」 またその話題か 変に目立ってしまっているから困る 見たことない人にもそんないちゃもんつけられるんだから 『だから、僕は男だから』 「つい最近まで、うちの生徒に女子が混ざっていたからな」 『朱里くんと僕は関係ないのに。脱ぎますか?』 と、カゴを地面に置いてカーディガンのボタンに手をかけて外していく 「外で騒ぐな。ここで脱ぐやつがあるか。恥ずかしいやつめ」 『そっちからけんか売ってきたのに』 と、内心安堵しながら カーディガンのボタンを止め直した すると先輩はカゴを地面から持ちあげてくれて 僕に渡す そして中に玉ねぎも入れてくれた 『先輩、』 「なんだ」 『名前は?』 「…灰谷吹雪」 『ぶっきーか』 「変な名前で呼ぶな、日向の差金か」 『やっぱりぶっきーだ。日向がいいやつって言ってました』 あと、平子先輩と仲良いって 「別にいいやつなんかじゃない」 『先輩の今日の夕ご飯は?』 「お前に関係ないだろ」 『自分で作るんですか?』 「…味噌汁だ」 『味噌汁だけ?』 「後は肉じゃがと浸しでも作るか」 『家庭的』 「うるさい。俺はもう行くぞ」 『僕は今日ハンバーグつくる!』 「しらん」 そりゃそうだ、と思いながら 先輩の背中に言った 『ぶっきー先輩』 「変な名前で呼ぶな」 『ぼく、明日体育祭だから!見に来て!勝つから』 「声が大きい。知らん」 と、行ってしまった 吹雪先輩は料理上手なのかな 認めてもらえるかな 僕が同じ学校の生徒って 朱里くんと違うって □ 今日は体育祭だからお弁当を作ってきた これでようやく謎の襲撃から解放されると思うとちょっと安堵だ 去年病院送りが何人も出たサッカーとバスケは廃止らしい 競技は野球と玉入れと棒倒しとドッジボール 徒競走と障害物競争と あと騎馬戦だ 暑くても日焼けはしたくないから 長袖のジャージをきて 日焼け止めを塗った 「よっしゃ、絶対勝つぞー!」 と、日向は気合いを入れていた 僕は比較的安全そうな玉入れと 障害物競争と 全員参加の騎馬戦に出場だ 比較的安全そうと思っていた玉入れは玉のぶつけ合いでドローになり 着々と病院送りが出てきたところで リレーに出ている日向に手を振った 最初はきさきからスタートだ クラス対抗とかじゃなくて 1年対2年というざっくりしたルールなのがこの学校のいいところだと思う 『きさき頑張れー!』 さすがきさきだ 早い 強いだけあって身体ががっしりしてるから 早い 1年生に大差をつけてバトンを次に回したきさきは 汗を拭いながらこちらに戻ってきた 『おつかれ、さすがきさき。早かったね』 「当たり前だ」 と、飲み物を飲むきさき その時 がばっと後ろから肩を組まれて振り向く 『わ、ひ』 ひ、 「平子先輩?に、灰谷先輩」 先に言われた 『見に来てくれたんですか?』 「まーねー。まさかお前らが負けるわけないよねって」 『今の所勝ってるから、ほら、日向が走りますよ』 「本当だ。楽しそうだね、あいつ」 『日向頑張れー!』 「お前は?何かに出たのか?」 『僕は玉入れと次の障害物と最後の騎馬戦ですけど。』 「そうか」 「ジャージ脱がないの?暑苦しいね。まさか脱げないとか?」 と、平子先輩がジャージの襟を引っ張ってくる 「平子先輩はまたやってるんですか」 「だって怪しくなーい?こんな炎天下なのにそんな着込んじゃって」 『いや、これは、太陽の光が苦手で。ヒリヒリするから』 「あー、そんな事、朱里も言ってたよね」 「おい、平子」 『あ!きさき!先輩!日向勝ったよ!おーいひなたぁー!』 と、ゴールをした日向は 笑顔でこちらに手を振って走ってくる 『日向すごいよー!おめでとう!』 「ったりめーだろ!勝つって決めてるからな」 『はやかった!』 「次は雪が障害物競争だよな。ぜってー負けんなよ!」 『おう!まかせろ!』 と、日向とハイタッチして 手を振って集合場所に向かった 背の順だから 僕の順番は早めに来て ピストルの音で走り出した 脚はそんなに早くも無いけど遅くも無い方 バランス感覚はいい方だから 早々平均台を越えて ネットをくぐる 他の人に比べて小さめの体だから ネットをくぐるのも結構余裕で 跳び箱を跳んだところで後は飴を口の中に入れてゴールを目指すだけだった ふっ、と小さく息をかけて白い粉の中から飴を探していると 「ちまちまちまちまやってんじゃねー」 と、横で応援していた1年から頭を思いっきり上から押さえつけられた 痛い鼻打った がばっと入ってきた飴を加えて 僕の頭を押さえつけて手を捕まえながら起き上がる 見た事ある顔、1年生だ この前ゲーセンで絡んできたやつ 「だっせー、顔真っ白じゃねえーか」 と、僕に掴まれて無い方の手で指を指して笑われて 僕もイラっときた 鼻も痛いし むかつく、と口に入った飴と粉を ふっと吹きかけて 「ぐあっ」 彼が倒れるのを確認してから 顔を拭って ゴールを目指す ちなみに飴コーナーの目の前では 僕のせいで乱闘騒ぎが始まっていた

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