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第2話 しつけは始めが肝心!・5
「……さ、さっきのも仕事の内に入るんですよね? ……またああいうことするってことですか?」
その悪魔顔に向かって言うと、刹が口周りに付いたチリソースを舌で舐め取りながら「まあな」と鼻で嗤った。
「不特定多数の人間と一日何度も本番しなきゃらならねえ風俗よりは、まだましだろ」
「そ、そうですけど……俺ああいうことって慣れてなくて、心の準備もないままいきなりされると……気絶しそうになるので」
「その慣れてない感じが可愛いよね。一から俺達が全部教えて、そのうち俺達なしじゃイけないようにしてあげるから安心して、那由太」
炎珠さんの言葉に頬がカッとなり、危うく持っていたピザを握り潰しそうになってしまった。ついさっきまで体中に感じていた熱が一気にぶり返してきて、恥ずかしさと屈辱から炎珠さんを睨んでしまう。
「そんな怖い顔しなくていいよ。いまいち伝わってないみたいだけど、俺達二人とも那由太のこと本当に大事にしたいと思ってるんだ。優しいご主人が一度に二人できたと思って、リゾート気分でのんびりしててよ」
炎珠さんが次のピザに手を伸ばしながら続けた。
「ビジネスって考えてくれればいいんだよ。ここに居るだけで貯金も増えるし、三食昼寝付きだし、美味しい物も綺麗な服も全部俺達が用意してあげる」
……確かにそれだけ聞くと、仕事にしてはこれ以上ないほどの高待遇に思える。何も無ければ即受けしてもおかしくない条件だ。
「……でも……」
「突然で悪かったとは思うけど、さっきのあれも愛情表現の一つだよ。現に俺達は自分の快楽なんかそっちのけで、那由太を気持ち良くしてあげたでしょ」
「………」
やろうと思えばあの場で俺を最後までレイプすることもできただろうし、考えたくもないけれど自分達のソレを俺の口だの尻だのに突っ込むこともできた訳だ。
R指定がかかっている鬼畜なエロ漫画みたいなことをされると思っていたけど、結局されなかった。痛いことも苦しいこともなく、ただ俺が色々されて果てただけ。
その理由が本当に彼らの言う「愛情」なら。
彼らの話が、全部本当のことなら。
「ここに居るなら実家に仕送りできるくらいは稼げるし、ご家族も那由太も一生安泰だよ」
「俺だったらソッコーで飛び付く条件だけどなあ」
「………」
割り切る勇気さえ持つことができるなら、ひょっとしてこれは平凡な俺にとってまたとないチャンスなのかもしれない。
現についさっき、俺は彼らの口座から一千万円を受け取って借金の返済振込ができたのだ。どうやって金を作ったのかしつこく聞いてきた金融屋も、幸嶋栄治の名前を出したら全てを理解した様子ですんなりと俺から完全に手を引くと言ってくれた。
「どうする、那由太? 契約書にサインはもらったけど、無理矢理っていうのは好きじゃないから那由太の意思を確認させてもらいたいんだけど」
「………」
ああ、欲深き人間の罪ってこういうことを言うのだろう。
「分かりました。……そ、その代わりまたああいうことをする時はなるべく事前に言って下さいね」
「もちろん!」
借金の肩代わりと引き換えに二人の男の愛玩ペットになるなんて、全くもって意味不明だけど。
着飾らされて、食事の世話をしてもらって、じゃれあうことでご主人達を喜ばせる。
炎珠さんと刹の「ペット」になること──これは、俺のビジネスだ。
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