13 / 114

第3話 初めてのお仕事?

「ん……」  ふわふわの枕。柔らかいマットレス。白いレースのカーテンから差し込む朝陽。エアコンから送られる冷たい風が気持ち良い、完璧な六月の朝。 「……げ」  青空色の壁紙。そこに描かれた雲や飛行機。ベッドが面した部分だけ壁紙が夜空になっていて、ポップな星や月が描かれている。  床にはくるぶしまで埋まりそうな毛足の長い白い絨毯。マカロンやシュークリームの形を模したクッション。壁に設置された棚の上に並んでいるのはペガサスやウサギのぬいぐるみ。  天井にはミニサイズのシャンデリア。……ベッドは枕からシーツから全てがふりふりパステルピンク。まるで個性が変な方向に爆発した女の子の部屋だ。  ──そうだ、俺はあの二人のペットになったんだっけ。  俺専用の部屋として昨夜ここに案内された時も開いた口が塞がらなかったが、これから毎朝このファンシーワールドで朝を迎えなければならないと思うと、……炎珠さんのセンスを呪いたくなる。  ふわふわピンクのベッドの上で半身を起こした俺は、ヨダレを手の甲で拭いながらぼんやりと自分の体を見下ろした。  着ているのはヒョウ柄の半袖パジャマ。パジャマなんて着たのは中学一年の時以来だ。 「那由太、起きてる? あ、起きてた。おはよう!」 「おはようございます……」  ノックも無しでドアが開き、ニコニコ笑う炎珠さんが顔を覗かせた。今日もばっちりユル系ファッションで決めている。 「朝食の準備ができてるから、歯磨きと洗顔が終わったら下においで。パジャマのままで良いからね」 「………」  それだけ言って炎珠さんがドアを閉め、俺はまたファンシールームに一人取り残された。  俺のビジネス。炎珠さんと刹のペットになること。今日はその第一日目だ。  金のために承諾はしたものの具体的に何をするのかよく分からず、このまま素直に朝食を食べに行っても良いものか考えてしまう。  ともあれいくら考えたところで現状は変わらない。部屋を出た俺は廊下の突き当たりにあるトイレへ行き、用を足してから洗面所で顔を洗った。ふわふわなパイル地のタオル……これも俺のために用意した物なんだろうか。 「おはよう、那由太! そこのソファに座ってね。飲み物は何がいい? 牛乳と、麦茶と、オレンジジュースもあるけど」 「そ、それじゃあ牛乳でお願いします」  カウンターキッチンの向こうで何やら準備をしている炎珠さんが、「了解!」と猫の絵の付いたグラスを食器棚から取り出した。 「よう、にゃん太。今朝の機嫌はどうだ」  リビングの方ではソファに踏ん反り返った刹が新聞を広げている。昨日と同じく上下黒い服で、ついでに目の下にもクマがあった。 「普通ですけど……」 「普通が一番だ。妙にハイになってるよりはな」  言いながら刹がテーブルの上に新聞を投げた。熱心に何を見ているのかと思ったら、どうやらテレビ欄だったらしい。

ともだちにシェアしよう!