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第3話 初めてのお仕事?・8
「那由太、チャーハン美味しい?」
「……は、はい。美味しいです」
「ホットプレート出すから、一緒にクレープ作ろうね。アイスとチョコソース入れて、コーンフレーク入れて、生クリームたっぷり絞ってあげる」
「もういいですよクレープは。作るのも後片付けも大変そうだし……」
「えええ、残念。それじゃあ後でアイス買って来るから、お風呂上りに食べよう」
「マタタビでも買って来てやった方がいいんじゃねえの?」
刹が皮肉っぽく笑ってソファの上にあぐらをかき、シャツの中に手を入れ満腹になった腹を撫でた。ちらりと覗く形の良いヘソ。ついつい、視線を送ってしまう。
「何をチラ見してんだ、にゃん太ちゃん」
「み、見てないです。……ていうかあの写真、何なんですか? あんなにいっぱい撮ってどうするんです?」
前半はともかく、後半の写真は絶対に誰にも見られる訳にいかない。できれば炎珠さんにも見られたくない。
恥ずかしい写真で脅されたり強請られたりという話は良く聞くけれど、俺に関してはもう一千万という最大の弱味を握られている状態だから、今更それは意味がない。
だとしたらあの写真は素直に刹の趣味ということだろうか。あれじゃあフォトグラファーではなくヌードカメラマンだ。
「ペットの写真を撮るのは普通だろ。成長過程を楽しむためにな」
「お、俺はこれ以上成長しませんけど!」
「中身が、ってことだよね? 刹」
「まあ調教するまでもなく、ペットとしての素質は始めからあったみてえだけどな」
──お前は見られたり、恥ずかしい思いをすることで体に火が点くタイプだ。
「っ……」
刹の言葉を思い出して、俺はきゅっと唇を噛んだ。
*
その夜は風呂上がりにアイスを食べながら、ソファに三人並んで映画を見た。
「うちのお風呂気持ち良かったでしょ。俺的にこの家で一番こだわってる場所なんだ」
「た、確かに」
炎珠さんの家の風呂はバスタブが広く、大人の男が二、三人で入ってもそれほど窮屈ではない造りになっていた。
かと言ってもちろん三人で入った訳ではない。広いバスタブで手足を伸ばし、この家に来て初めて一人きりのリラックスタイムを過ごすことができたというだけだ。
脱衣所に用意されていたのは今朝まで着ていたヒョウ柄ではなく、今度はゼブラ柄のパジャマだった。もはや猫でも何でもないが、とにかく刹はアニマル柄が好きらしい。本人は黒しか着ないくせに。
「那由太、明日の朝は何が食べたい?」
炎珠さんに訊かれ、俺はアイスのスプーンを咥えたままもぞもぞと身動ぎした。
「それじゃあ、……白いご飯で」
「分かった、それじゃ明日はご飯とお味噌汁に魚も焼いて、大根おろしで食べようか」
猫だな、と刹が呟いて笑った。
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