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第4話

 発情期のセックス。それは、吐き出す、というより、掻き出す、感覚に近い。もやもやしたものが溜まる、というより、身体の内側にへばりついてくるものを、掻き出す。力を入れて完璧にきれいにしようとするときれいな皮膚まで剥ぎ取ってしまう。だから何とか許容範囲、というところまで減らせればいい。適度に諦め。  まだ中途半端に残っている快楽の残り滓が、内側をゆっくり伝い落ちていくのを感じながら、コーヒーショップに入った。家にひとりきりでいると惨めになるのが分かったからだ。でも入ってすぐに後悔する。できるだけ静かなところ、と、ひとりでパソコンを広げている男の隣を選んだのに、あとからそいつの連れが来たせいで、店で一番うるさいエリアになってしまった。仕事仲間か。愚痴を漏らしながら、それでもさっきより快活に指を動かしてキーボードを叩いている。 「業務委託した会社が使えなくてさあ。ミス連発で。委託したところで手間ばっかかかるから本当はやりたくないんだけどさあ。実績作れって上はうるさいから」 「最近流行ってるもんな、オメガの特例子会社」 「それが下ろしてんのがさ、そもそも本当はRPA化するはずだった業務でさ、本末転倒だっての。あいつらのために仕事作ってやってるようなもんなんだから。それで本体は効率化効率化って……」  それ以上聞いてられず、店を出た。コーヒーは半分以上残っていた。  ……そうだよ、所詮オメガは、アルファさまに仕事を恵んでもらってるんだ。  朱莉の会社の連中だって、口には出さないだけできっとそう思っているに違いない。  何気なく頬に手をやると、吹きつける風のせいで思った以上に冷えていた。十一月。まだ一ヶ月ある、と思うこともできるはずなのに、もう一ヶ月、としか思えない。何ならもう今年が終わったような気がしている。一ヶ月じゃ何もできない。でもたとえ三ヶ月あったとしても、きっと何もできやしないんだろう。新しい年になっても。そもそもしたいこともないんだ。食って寝て発情して寝て……死ぬまでそれを繰り返すしかないんだ、どうせ。

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