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第6話
うざい勧誘をふりきるつもりが、逆に周囲の注目を集めてしまった。舌打ちしたのと同時に、信号がピッポ、ピッポ、と鳴り始め、どっ、と人が動き出す。そいつとふたり、勢いよく流れる川の中央で流れを堰き止めている岩のようになってしまう。決して良心が痛んだわけじゃない。人波に身動きが取れなくなったからしかたなく、ビラを拾うのを手伝う。おばさん議員の顔の上に、足形。全部拾い終えたときには、信号は赤になっていた。
「……ばっかみてえ」
心の中で呟いたつもりが、外に漏れていたらしい。
「本当にそうですよね」
一体どういった意図で彼は言ったのか。気になって彼の方に視線をやったが、目が合いそうになって慌てて逸らす。彼の他にも同じ色のパーカーを着たスタッフがビラを配っていたが、丁度こちらには背を向けていた。
バイト……なんだろうか。寒空の下、たぶんほとんど受け取ってもらえないであろうビラを配り続けるなんて。大変だな、と同情するのと同時に、やはり馬鹿じゃないか、とも思う。朱莉ならこんなバイト絶対選ばない。それともよほど世に訴えたい主義主張があるのだろうか。
かき集めたビラを手渡す。
「有り難うございます」
朱莉のせいでこうなったのに、それを責める意図が一ミリもないことにたじろいだ。おばさんの街頭演説は、さらに熱を帯びている。
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