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第9話
「そうですかね……正直俺、そんなにお役に立ててる気がしないんですけど。それに同じ業務内容で派遣延長って確かできないんじゃないでしたっけ」
現在産休を取っている社員の代替要員として、朱莉は派遣されている。契約上はそのまま残ることも可能だったが、社員が戻ってきたら朱莉なんてお払い箱だろう。引き継ぎのため一度顔を合わせたことがあったが、彼の方が朱莉より圧倒的に優秀に見えた。同じオメガにも関わらず、だ。血統書つきのペルシャ猫のような雰囲気。やはり社員、という立場がそうさせるのだろうか。でも朱莉が仮に正社員として雇用されたとしても、同じようにはふるまえないだろう。
「何言ってんの、朱莉ちゃん来てくれて大助かりだよ。契約のことは、どうとだってなるから」
どうとでも……か。
確かにアルファなら、この世のありとあらゆることは『どうとでも』なるんだろう。
「それより重要なのは気持ちよく働けるかどうか、だよ。いくら制度が整ってても、結局はひととひととの相性だから。どう? 皆とうまくやれてる?」
「ええ、特に……皆さんもよくしてくださいますし。嫌な思いをしたこともありません」
そのひとことを引き出させたかったのかもしれない。彼は満足げに頷くと、エレベーターを降りるなり、振り返りもせずに朱莉とは別方向に颯爽と歩いていった。
朱莉ちゃん。
グループの皆、朱莉のことをそう呼ぶ。害をなさないペットとしてなら、オメガでも居場所を与えられる、ということだ。
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