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第11話

 丁度アプリに通知が来ていたので確認すると、発情期のときに声をかけたアルファから、今さら返事が来ていた。『もしよかったら今日どう?』……って、発情期はとっくに終わってんですけどね。 『返信ありがとー。でもごめんなさい、丁度終わったばっかりで。また今度お願いしていーい? 〇〇さんがOKだったら抑制剤で無理矢理抑えたりしなかったんだけどなー』  媚び媚び媚び……と。  表情豊かな顔文字を連発しているときほど、リアルは無表情になっていくから不思議だ。イマイチ空気の読めない奴だけど、キープ要員をむざむざ減らすこともない。適度なお付き合い。  他にも来ていたメッセージに返信し終え、アプリを閉じる。でも結局他にすることもないので、次やるならどいつにしようとプロフィール画面をスクロールさせる。  どうせやるなら、稼げる方がいい。  わざわざカネを出してアルファに『抱かれる』オメガもいるらしいが、馬鹿じゃないか、と朱莉は思う。もともと持っている奴をさらに儲けさせてどうする。  発情期になると、大体七、八万は稼げる。いい副業だ。派遣先は副業は禁止されていないらしいけど、流石に正社員になったら時間的にもバレたときのリスク的にもやりずらくなる。正社員のオメガは多いが(派遣先はオメガの雇用対策のために作られた特例子会社だから当然でもある)、彼らと『そういう』話をしたことはない。同じ境遇で『理解し合える』ひとたちが集まっているはずなのに、各々、本当に『理解してほしい』部分については、まるであけたら異臭をまき散らす缶詰さながら、誰も決して人前で開封しようとはしない。  ちらりと、一度会ったきりのオメガの顔が脳裏をよぎった。澄ました顔をしていたが、あいつにだって当然、毎月の発情はあるだろう。あいつはどうやって解消して……って、そうだ、『つがい』がいるじゃないか。子どもを作るんだから当然、『つがい』となるアルファがいるはずで、毎月の面倒はそいつに見てもらっているに決まってるじゃないか。  つがい、か……  忌ま忌ましすぎて、心の奥深くに重りをつけて沈めていたはずの言葉を、うっかり浮かび上がらせてしまった。

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