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第12話
沈め沈め、と念じながら、手すりをぎゅうっとつかんだ。
つがいなんていらない。
つがいとなったアルファにしか発情しなくなるなんて、ぞっとする。それこそアルファに『飼われて』しまう身であることを、自ら進んで認めるようなもんじゃないか。それなら残飯を食い散らかす野良猫でいたい。
窓ガラスにこつん、と額をぶつけ、ため息をついたところで……ふと、違和感を感じた。
顔を上げる。背後に立つ男と目が合った。男の顔が自分とほぼ変わらない大きさで窓ガラスに映り込んでいる……ということは、それだけ距離をつめられている、ということだ。確かに混んではいるが、ぎゅうぎゅうのすし詰め……というほどでもない。それなのにこれはあきらかに……
嫌な予感、が、尻になまあたたかいものを感じた瞬間、ぶわっ、と、現実として突きつけられる。どんな顔をしているか確かめたかったが、丁度電車はトンネルから外に出てしまい、車内の景色が映り込まなくなってしまう。
初めは添えられているだけだったのが、指の一本一本がくっきり分かるほどの力で揉まれ、もう、気のせい……と現実逃避することはできない。物理的にはとっくに追い込まれていたが、精神的にも行き止まりにごつん、とぶつかったのを感じたそのとき、
「アルファ探してんだろ」
耳元で囁かれた。
「お前、オメガだろ」
違う、と言う前に、「さっきアプリ見えちゃった」と畳みかけられた。「気をつけなよ、誰が覗き見てるか分かんないから」
だったら……
「だったらもっとちゃんと見とけ、今回の発情期はもう終わってんだよ」
けれど男は尻を揉むのをやめない。思わず「んっ」と声が漏れたのは、感じたからじゃなく、不意を突かれたからだ。それなのに男は、感じてるくせにと言わんばかりに鼻を鳴らした。
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