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第19話

「はあ……で、その、痴漢された……そちらの方は、オメガ、ですか?」 「そうですが」 「分かりました。一応警察に連絡しますが……しかしオメガ絡みのそういういざこざは日常茶飯事ですからね。まともに取り合ってくれるかどうか……」 「鷺宮はバース差別根絶を公約に掲げています。そんな我々の目の前で起きたまさに差別案件を、見過ごすわけにはいきません」 「ちょっ、ちょっとちょっとあんたさっきと言ってること……」  本気で焦った。何もそんなおおごとにしてくれなくていい。 「申し訳ありませんでした」  そう言うと彼……鷺宮という男……は、朱莉の方に向き直ると、九十度に腰を曲げた。  その後頭部を見下ろしながら、どうせ何をやったって無駄……と思っていたのは、自分の方だったことを思い知らされた。

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