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第22話

「ああ……何か、頼まれたから、さっき……青のスーツ着てたおばさ……いや、『さぎみやはるこ』センセイ? に。丁度暇だったし、これ、折るくらいなら別に……」 「……もしかして、これ全部やってくださったんですか」 「ああ……うん」 「有り難うございます。すっごく助かりました。いや、本っ当に助かりました」  束になった封筒を押し戴くようにしている。大袈裟だな、と思いながらも、悪い気はしなかった。 「手渡しになってしまうんですけど、時給はお支払いいたします」 「へっ? 時給……いやいやいやほんの十分程度だし、そんな大袈裟にされても困るっていうか……」  痴漢のときといい、やっぱり彼は少しズレている。でもそのズレ加減が、逆に常人には真似できない行動力につながって、こういう仕事ではプラスに働くのかもしれない。 「実は今日からお願いしていたバイトの方が、急遽来られなくなってしまったんです。だから本当に助かりました」 「バイト……ああ、それで……」  きっとさっきセンセイに、朱莉はバイトと勘違いされてしまったんだろう。 「……あの、よかったらこれ、あと残り少しなんで、全部片付けていっちゃうけど?」 「えっ……ああいやいや駄目です、駄目です、そんなの、悪いです。来週になったら後援会の方にも来ていただけますし……」 「いやいや、今一瞬、めっちゃ食い気味だったよね。……迷惑ならやめるけど。でも、ここまでやっちゃったら最後までやっちゃわないと気持ち悪い、っていうか。事務アシスタントとしての血が滾るんだよ」 「事務アシスタント……」 「派遣だけど。だからまあ……ロクなお礼もできないんで、これがお礼代わり、ってことで」  一応持ってきた、スーパーで買った洋菓子のしょぼさが急に恥ずかしくなり、椅子の下にそっと隠す。 「それにしても、政治家の事務所って……ずいぶん忙しそうだな。初めて来たけど」 「春には選挙が控えてますから」 「選挙」  と、言われても何の選挙かピンと来なかった。つい最近も何か選挙があったような気がするけれど、あれと何が違うんだろう。選挙といえばたいてい、知らないうちに始まって、あともう一回クソうるさい選挙カーが回ってきたら苦情を入れてやる……と、堪忍袋の緒が切れそうなぎりぎりのところでピタッと終わりを迎える……という印象しかない。

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